熊本の未来をつくる経営者
予防・治療のプロフェッショナルとして、生命科学の可能性に挑戦し続ける、KMバイオロジクス株式会社の永里社長
永里敏秋(ながさととしあき):KMバイオロジクス株式会社・代表取締役社長。益城町出身。熊本第二高校、熊本大学大学院薬学研究科修士課程修了。1983年明治製菓㈱入社、2003年11月明治魯抗有限公司総経理(中国)、11年6月Meiji Seika ファルマ㈱バイオサイエンス研究所所長、14年7月執行役員生産本部長、18年1月取締役執行役員生産本部長(バイオ医薬事業推進部、バイオサイエンス研究所管掌)などを歴任し、18年7月KMバイオロジクス㈱社長就任。Meiji Seika ファルマ㈱取締役を兼務。
バイオテクノロジーを駆使し世界中の人々が安心して暮らせる社会の実現を目指します
ココクマ編集部(以下、編集部):事業内容を教えてください
永里敏秋社長(以下、永里社長):私たちKMバイオロジクス㈱(以下、KMバイオロジクス)は「ヒト用ワクチン」「動物用ワクチン」「血漿分画製剤」「新生児マススクリーニング」の4つの事業を行う国内唯一の製薬会社です。2018年7月に明治グループの一員として発足しました。
KMバイオロジクスが有する高い技術力と、感染症治療薬のトップメーカーであるMeiji Seika ファルマ㈱が連携することで生まれるシナジー効果により、一歩先を行く独自の価値を創造していくことこそが、弊社の使命であると考えています。
近年、世界的に健康意識や感染予防の重要性が高まっています。弊社は予防、治療のプロフェッショナルとして、製品・サービスの安定供給を通して人々の健康で豊かな未来に貢献することを目指しています。
編集部:インフルエンザワクチンの生産量は国内トップシェアだとか…
永里社長:国からの増産要請もあって今年度の生産量は前年比約20%増で、国内シェアトップ。過去の実績も含めて最も多い生産量となりました。
インフルエンザワクチン以外にも、KMバイオロジクスは希少疾病に苦しむ患者さんを救うという社会的使命から、オーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)やシングルサプライ製品(弊社のみが製造している製品で代替品がないもの)の開発・供給を積極的に行っています。患者数が少なく市場性は小さい分野ですが、「命」に関わる事業に携わり、貢献できることが私たちの誇りでもあります。
また、新生児スクリーニングセンターの新棟が完成し、20年12月から稼働しています。赤ちゃんが生まれつき代謝異常などの病気を持っている可能性がないかを検査する施設で、現在弊社では熊本・福岡・佐賀県の6自治体から委託を受け、年間約6万5千人の検査を行っています。新設したセンターでは検査項目の拡充にも取り組み、赤ちゃんの病気の早期発見と早期治療へつなげていく事業として力を入れていきたいと考えています。
編集部:新型コロナワクチンの開発にも取り組まれていますね。
永里社長:20年5月から新型コロナウイルス感染症に対するワクチンの開発を進めています。世界的に見ると、新型コロナウイルスの一部の遺伝子を体内に注射する「核酸ワクチン」の開発が広く行われていますが、弊社では、ウイルスの感染力や毒性をなくした「不活化ワクチン」の開発に取り組んでいます。核酸ワクチンは早く開発できるという利点があり、早期に供給されることはいいことだと思いますが、私たちは安全性と安定供給の観点から、従来から接種されてきた実績のある不活化ワクチンが優れていると考えています。弊社の開発状況については、21年3月にヒトへの臨床試験(治験)を始めており、21年度中に生産設備を整備、23年度中には国民に届けたいと思っています。海外からの輸入に頼らず、必要量を長期にわたって確保するためには、国内生産が重要だと考えています。
また21年の2月には、アストラゼネカ社が国内へ導入する新型コロナウイルスワクチンAZD1222の製剤化に関する業務委受託契約を締結しました。弊社の合志事業所は、新型インフルエンザワクチンであれば半年で5,700万人分の供給が可能ですのでこの設備を活用します。
意識改革や社会貢献に取り組む
編集部:従業員の意識改革にも取り組まれていると伺いましたが
永里社長:従業員自らが考え行動に移していかなければダメなんですよ。トップダウンではなくボトムアップ。もっとこうしたいという意見を求めています。就任しまず着手したのがコミュニケーションや情報共有の機会を設けること、コスト意識の醸成です。弊社の従業員は、非常に優秀で一生懸命仕事に取組む真面目な方が多いのですが、自分の部署・業務さえよければ…という意識が強かった。だから、予期せぬ労働災害も起これば、失敗も起きてしまう環境だったのです。そこで、職場懇談会をはじめました。毎月1時間、部署ごとにミーティングを行い、職場環境、コンプライアンス、サステナビリティなどテーマを設けて話し合いを重ね、アクションプランに落とし込んでいます。また、提案制度も復活させました。パートタイマー含む全従業員から意見やアイデアを募るもので、すばらしい提案には表彰や賞金も出しています。
コスト意識も明治グループは徹底してますから、これまで以上に意識を高めてもらえるように、利益や原価に対する考え方をレクチャーしています。生産性や効率化、品質の向上に自然と繋がるんですね。当然ですけど、失敗が減れば残業も減る、従業員の健康にもつながるという好循環を生んでいるのです。
今まで知らなかっただけで、今はコストのことに関しても相当意識していますし、失敗しない様に作るにはどうしたら良いのか、改善活動を含めて力を入れてやってくれていますので、もっともっと良くなるのではないかと思います。
編集部:今後の抱負をお願いします。
永里社長:Meiji Seika ファルマ㈱取締役を兼務していますので、明治グループのブランド力とMeiji Seika ファルマの販売力、KMバイオロジクスの高い技術力のシナジーをいかに高めていくかが私の仕事だと思います。目先の生産・販売もありますが、特に研究開発こそ、グループ全体で取り組むべきだと感じています。昨年から人事交流をスタート、まずは営業・研究開発部門、今後はコーポレート部門にも拡げていく考えです。
また、2026年に向けて目指すべき企業像を示した「2026ビジョン」を策定し、昨年10月に従業員に発表しました。現在、直近3カ年の中期経営計画を作成中です。感染症領域の事業をアジア向けに拡大し、デング熱や日本脳炎などのヒト用ワクチン、動物用ワクチンの海外輸出や技術導出を展開していきたいと考えています。同時に熊本や社会に貢献するサステナビリティ活動にも注力していきます。
社会やお客さまから必要とされ、信頼される企業であり続けるためのサスティアビリティ活動
編集部:サステナビリティ活動とは具体的にどのような活動に取り組んでいらっしゃるのですか?
永里社長:弊社の事業そのものがサステナビリティ活動ですが、その他にもコロナ前は小学生、高校生、大学生などを対象とした工場見学会や病気予防の学習会を開催し、病気予防、健康の大切さを伝える啓発活動を実施していました。現在は県内の小・中学校に赴き、ワクチンを含めた感染症の予防について啓発を行う出張授業にも取り組んでいます。また昨年夏に発生した熊本県南の豪雨災害に対しても、被災地支援としてボランティア活動をくまもとSDGs推進財団とともに行いました。その他、脱炭素に向けて特定フロンが使用されている機器の全廃、エコカー(低公害車)への切り替えや太陽光発電設備の導入、地下水保全活動の推進など、私たちにできることは積極的に取り組んでいます。
編集部:人材採用も積極的ですね
永里社長:新卒は毎年35-50名程採用しています。薬学・獣医・バイオ系・機械系と非常に優秀な人材が豊富にいます。ただ、優秀な人材は中途採用でも積極的に採用していきたいと考えています。特にプロフェッショナル人材やIT知識が豊富な人材ですね。また経験以上に人間性を重視しています。公益性の高い事業を行っていますので、社会に貢献するんだという強い意識を持っている方がこの会社に相応しいと考えています。
編集部:熊本生活はいかがですか?
永里社長:正直言うと、これまで熊本で仕事したいとは思ったことがありませんでした(笑)。しかし、これまで携わってきたバイオテクノロジーの分野であり、優秀な人材に囲まれているので仕事のレベル感は東京と遜色ありません。加えて、ゴルフ好きな私には最高の環境ですね。安いし近いし…。ここでゴルフしなくてどこでやる!と従業員を焚きつけています(笑)。
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