熊本の未来をつくる経営者
世界水準の商品・ブランドを熊本で産み出し世界へ発信する、株式会社古荘本店の古荘社長
古荘貴敏(ふるしょうたかとし):株式会社古荘本店・代表取締役社長。熊本市出身。熊本高校、慶応義塾大学法学部卒。2000年富士ゼロックス(株)入社、大手通信会社の主担当営業として充実した時期を過ごす。05年古荘本店入社、開発事業部にて新規事業開発及び法人営業を担当。11年4月常務取締役、15年3月専務取締役を経て、17年5月から現職。
DX連携、M&A、システム投資など次代に向けた積極投資をすすめる
ココクマ編集部(以下、編集部):事業の状況はいかがでしょうか。
古荘貴敏社長(以下、古荘社長):「アパレル事業」「通信事業」「法人事業」の3つの事業を柱に事業を展開しています。「アパレル事業」は1877年の創業から続く事業で、繊維総合卸事業に加え、国内外のナチュラルブランドを展開しているセレクトショップ「natura」、「文房具と雑貨とパン屋さん」というコンセプトで店舗展開するDESAKIの店内に出店している「galleries」、レディースファッションを中心とした総合店舗「nable」「キナッセ」、子供服の「BREEZE」「apres les cours」といったショップを熊本・福岡・山口・大分・佐賀・宮崎に展開しています。現在店舗数は31店舗となります。また、アパレルメーカーとして自社ブランド製品の製造・販売に力を入れています。30~40代女性をターゲットとした「mur-mur.ntr」「E.m.m.M」の2ブランドを展開しています。また、自社ショッピングモール「Fullshop」、学生服・学校用品の専門店「Gaccos」などのEC事業にも力を入れています。
「通信事業」は、ドコモショップの一次代理店として熊本・大分で4店舗運営しています。今年7月には県庁前店を閉鎖、新たに平成店を開設し、「地域のお客様に寄り添う」ショップを目指します。併せて、日々発展する最先端のテクノロジーを活用したサービスを、ドコモショップ内でいかに展開できるか、今後に向けて準備を進めている最中です。
「法人事業」はさらに3チームに分かれています。ICTチームは富士フィルムBIの機器販売やシステム構築をベースに、地元中小企業向けにDX化支援も手掛けています。新たにシステムベンダー数社とも連携し、これまで以上にハイレベルな提案ができる環境が整いました。また今年の8月には山鹿市にあるIT機器販売会社をM&Aし、県北エリアでの営業拡大・強化も見込んでいます。
ファシリティチームは、東芝エレベーターやくろがね工作所といったビジネスパートナーと共創し、エレベーターや建設資材を法人向けに提供しています。相次いで熊本進出する大型ビジネスホテルの新規受注に加え、TSMC進出で計画されている住宅(マンション)分野へのエレベーターや機械式駐車場の受注など、案件は豊富です。コーポレートチームはユニフォーム・プリントTシャツ・ノベルティグッズ等の製品の企画・デザイン・制作を手掛けています。「熊本ヴォルターズ」チアリーダーコスチュームをはじめ、企業様オリジナルユニフォームなど幅広い用途に対応しています。
アパレルショップはアフターコロナで売上好転。社内ではDX推進や物流システムの導入など未来に向けた投資も行っています。法人営業はこれからもお客様の経営課題にまで深く入り込む関係性を構築し、協力会社と共創しながら、地域のお役に立てるようチャレンジしていきたいと考えています。
熊本から世界へ、「domono(土着のモノづくり)」プロジェクト始動
編集部:就任7年目で新たな取り組みが新たなプロジェクトが始動しているとか…
古荘社長: 「domono」プロジェクトですね。「土着のモノづくり」の略称で、日本国内で途絶えようとしている各地の職人技術や素材と積極的にコラボし、世界水準の商品やブランドを、熊本から産み出すことをミッションとした共創プロジェクトです。「ubusuna」は「domono」プロジェクト第一弾のアパレルブランドで、「産土(生まれた場所、モノを生み出す風土)」をコンセプトに、日本各地の土地で産まれた素材、洗練したモノづくり技術と共創し、自分たちにしかできない独自の服づくりにチャレンジし、創業の地である熊本から、日本・世界に発信していきます。
編集部:どのような服づくりを手掛けるのですか?
古荘社長:日本の伝統を活かした「日本の服」です。和服でもない洋服でもない、お洒落な和装というものがかつてはありました。現在準備しているのは、熊本県水俣市で栽培されるオーガニックコットンを素材に、球磨郡水上村で無農薬栽培されている藍で染色、人吉市の縫製工場でつくるというように、熊本という土地の持つ力をストーリーにして商品化していこうと考えています。
編集部:素晴らし取り組みだとは思いますが採算はとれそうですか?
古荘社長:もちろんです。ただ同時に、この取り組みを業界の底上げや地域の活性化につなげていきたいとも考えています。昨今アパレル業界は、市場の縮小や大量生産大量廃棄、業界に関わる人々の給与水準の低さなどマイナスイメージを持たれることが多いと感じています。でも着るもの一つでテンションが上がったり、気持ちを切り替えられるじゃないですか?服にはそんな魅力があるのです。1877年の創業時、一枚の服が戦禍の熊本の人々に希望と快適さを与えたように、「domono」プロジェクトの取り組みによって、日本独自のファッションや素晴らしい素材や技術を残し、アパレル業界の未来に貢献出来たらと考えています。生産者・メーカー・消費者・地域すべてにとってWin-Winな状態を創り出すことが、私たちの存在意義だと考えていますので、何としてもやり遂げたいのです。年内には「ubusuna」の世界観を体感していただける「FURUSHO HONTEN BRAND GALLERY」を本社向かい側にオープンする予定です。
「感動共創」の実現に向け人材育成に尽力する
編集部:社内的な取り組みを教えていただけますか?
古荘社長:創業時から掲げてきた経営理念「お客様第一主義」を基礎に置きつつ、2020年に「感動共創」という企業理念を掲げました。その背景には、経済状況や人々の価値観の変化があります。日本は豊かになり、ありきたりのモノやサービスでは満足されなくなっています。お客様の想定を超えた「感動」を提供できる会社でなければならない。そのためには経営者はもちろん、社員が成長し、協力会社さんやお客様とも連携し、新たな価値を創出していく「共創」が必要不可欠です。経営理念を変えたというよりは「お客様第一主義」を突き詰めていった結果が「感動共創」という言葉だったのです。「私も覚悟を持って従業員を教育する、みんなも自分の幸せのために本気になろう」という想いも込めています。そういう意味では、今回の「ubusuna」ブランドは「感動共創」を具現化する取り組みでもあるのです。
編集部:人材の力が益々重要になってきますね。
古荘社長:おっしゃるとおりです。例えばアパレル事業では、外部プロ人材の活用も進めています。自社ブランドの認知状況を調査し顧客価値を再考しています。またEC事業においては、購買経路を徹底的に分析し、ユーザビリティ改善や顧客体験の向上につなげる機能の実装につなげています。
加えて、3年くらいかけて、「識学」というマネジメントシステムを社内に浸透させてきました。これは簡単に言うと、全従業員が無駄なストレスを感じることのない仕事に集中できる組織づくりと、成果を上げるためマネジメント理論です。私自身、以前は和気あいあいとした雰囲気の中で楽しく働くことが従業員にとっての喜びだと考えていました。しかし社員の話を聞いてみると、仕事として成果が出せた時や目標数字を達成した時に、喜びややりがいを感じるという意見が大多数でした。会社が良い雰囲気であることも大切ですが、社員が成果を出せる仕組みや報いるための制度こそが重要だと今更ながら気づいたのです。
実は、古荘本店の礎を築いた二代目社長の古荘健次郎の経営スタイルが正に「識学」だったのです。例えば人事配置に関しては適材適所、情を挟まず能力によって判断する。商売の基本となるマナーや躾に関しては厳しく指導する。こういった商売の原理原則を今の時代だからこそ取り入れていく必要があると感じています。
編集部:社内にはどのような変化が起きていますか?
古荘社長:新人事制度を導入しました。与えられた役割に対する達成度によって、給与・賞与ともに変動する「成果型人事制度」です。これにより、若手社員でも役職を担う人も出てきています。意欲ある若者が順番待ちしなくてもよい組織になってきたと感じています。また、人財育成センターを立ち上げました。これまでの経験・実績などを見える化した「人材データベース」を整備しました。これにより、求められる役割を果たすために不足している能力を把握し、個々の能力を高めるための、適性な教育メニューを提供していきます、事業部をまたいだ適材適所の配属により、組織全体としての業務遂行力を高めていきたいと考えています。
編集部:最後にどのような人材を求めていますか?
古荘社長:採用で最も重視しているのは「人柄」です。具体的に言えば、明るく前向きでチームのことを考えられる人ですね。その上で「自分を更に高めたい」「組織の中枢を担いたい」という意欲的な人は、我々が求める人材像と一致します。これは新卒採用でも中途採用でも共通する部分です。