熊本の未来をつくる経営者
「C-HAS」技術で世界を変える。熊本大学発のバイオベンチャー株式会社C-HAS+の菊池CEO
菊池正彦(きくちまさひこ):株式会社C-HASプラス 代表取締役CEO。熊本大学薬学部博士課程修了、同大学で第一号となる薬学博士号を取得。第一製薬株式会社(現・第一三共株式会社)にて創薬や製品開発、ワクチン事業立ち上げなどを担当し、複数の大型製品化を達成する。17年熊本大学のUpRodプロジェクト事業プロデューサーに就任するために第一三共株式会社退職。同年株式会社NBMプランニング設立、代表取締役就任。22年4月株式会社くまもとファーマから株式会社C-HASプラスへ社名変更のタイミングで代表取締役CEOにも就任。そのほか東京大学特任教授、熊本大学客員教授としても活躍中。
世界初の健康寿命評価技術の社会実装を目指す。
ココクマ編集部(以下、編集部):C-HASプラスの事業内容を教えてください。
菊池正彦CEO(以下、菊池CEO):C-HASプラスは熊本大学発のバイオテクノロジー系スタートアップ企業で、天然物資源を活用したヘルスケア事業を展開しています。特に、モデル生物である線虫(学名 C. elegans)を用いた世界初の健康寿命評価サービス「C-HAS」を中核技術としています。C-HAS技術では、寿命が約30日の線虫を人間の一生に見立て、その線虫集団に食品素材や医薬品候補化合物を投与して健康寿命(ヘルススパン)への影響を定量評価します。この線虫評価で得られた知見をもとに、健康寿命を延ばす創薬シーズ、機能性食品、化粧品素材の開発支援サービスを提供しています。また、従来はマウスなど実験動物で時間をかけて行っていた予備試験を短期間かつ高精度に実施でき、動物実験の削減(クルエルティフリー)にも貢献しています。
その他にも、大規模な天然資源データベースの構築・提供も行っています。具体的には、植物データベース「PDⅢ」(32万種の維管束植物の情報を収録し、学名・生育地・伝統医療での用途・既知成分などを体系化)と、天然物エキスバンク「NEB」(植物・菌類・海洋生物・微生物由来の計28,000種以上のエキスを収蔵し、新規成分も多く含有)を保有しています。これらのデータベースおよびライブラリーにより、企業や研究機関に対して有用素材の探索から評価・開発まで一貫して支援するプラットフォームを提供しています。
編集部:C-HASプラスの創業の経緯は?
菊池CEO:C-HASプラスは熊本大学薬学部発の研究プロジェクトから誕生しました。きっかけは、2017年度に文部科学省の「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム(UpRod)」に熊本大学と熊本県が採択されたことにあります。このプロジェクトの代表には産業界の人材しか就任できなかったこともあり、私が製薬会社を辞めて、事業プロデューサーとして熊本に赴任することを決断しました。熊本地震をきっかけに母校である熊本大学に貢献したい思いは強くありましたので・・・。

編集部:熊本愛を感じる決断ですね。事業は順調に進んだのでしょうか?
菊池CEO:まず取り組んだのがプロジェクトチームの組成です。大学内の縦割り組織では成果が出にくい、研究室の垣根を越えた横断的なプロジェクトチームが必要だと考えたのです。事業プロデューサーをトップに、PM、外部アドバイザーなどを配置したガバナンスの効いた組織体を構築しました。また、プロジェクト開始時には合宿を実施し、ビジョンやミッションを徹底的に議論して方向性を統一することから着手しました。これは大学では「異例中の異例」で多くの大学から注目を浴びました(笑)。
UpRod事業は、熊本大学薬学部附属のグローバル天然物科学研究センター(GCNRS)を中心に、線虫を用いた健康寿命評価技術「C-HAS」の研究開発や、有用植物データベース・天然物バンクの構築が進められました。これらの成果を社会実装するべく2019年4月1日に「株式会社くまもとファーマ」として法人化。創業初期より研究開発の独自性や社会性が高く評価され、各種アワード受賞や競争的プログラム採択を得ることができました。2022年4月にはUpRod事業の成果(線虫評価技術・植物DB・天然物バンク)を継承し本格的に事業開始するために、社名を「株式会社C-HASプラス」に変更し現在に至ります。
編集部:プロジェクトが終わると消滅するケースが多いですが・・・。
菊池CEO:私たちは「自然と生命が調和する健幸社会を共に創る」というビジョンを掲げており、そのために必要な技術と仕組みをC-HASプラスで実現していきたいと考えています。さらに、C-HASプラスの事業は、研究のための研究で終わらせず、「社会実装」を重視した実践型の大学発ベンチャーであることが大きな特徴です。多くの大学発ベンチャーは、教授が自身の研究室の延長で企業を運営するケースが多いですが、我々は出口戦略を明確にし、「誰のどんな課題をどう解決するのか」を常に意識してサービスを設計しています。
また、社内には多様な専門性を持つ人材が集まり、熊本大学の研究者や、外部の専門家との連携によって、技術の信頼性と発展性を高めています。学術界と産業界の両方を経験してきた私の立場だからこそ、アカデミアと企業の間に橋をかける役割を果たせると考えています。C-HASプラスは、評価技術、データベース、地域資源活用という三本柱を軸に、熊本から全国へ、そして世界へと価値を届けていく存在を目指しています。
地域に根ざし、グローバル展開を目指す。
編集部:今後の展開を教えてください。
菊池CEO:技術面では、線虫評価から得られた知見をもとに創薬パイプラインの形成も進めています。例えば熊本大学のUpRod事業からはアルポート症候群やHIV感染症に対する治療薬シーズも生み出されており、C-HASプラスはそれらの実用化(患者への届け出)に向けた研究開発支援も目指しています。また、学術面ではC-HAS技術を活用した研究成果が学会誌などに発表され始めており、企業内R&Dのみならず論文発表という形でも社会へ知見を還元しつつあります。
編集部:グローバル展開も視野に入れていますか?
菊池CEO:現時点ではグローバル展開は時期尚早ですが、創薬分野で大きな成果が出れば視野に入ります。特に、エイズやアルツハイマー病などに有効な物質のパイプラインも存在し、大きなビジネスにつながる可能性を秘めています。
当面の課題は、評価サービスをルーチン化して安定した収益基盤(ベースライン事業)を築くことです。同時に、糖尿病モデル線虫の開発のような「革新的事業」にも挑戦し、大学発ベンチャーとしての先進性を追求したいと思います。将来的には、耕作放棄地での薬草栽培や受託会社の設立などを通じて、熊本での雇用創出や地方創生に貢献し、Uターン人材の受け皿となることを目指しています。

編集部:資金調達もされましたね。
菊池CEO:2025年には社会的インパクト投資ファンドであるSIIFICウェルネスファンドからの出資を受けました。熊本という地方都市に高度専門人材の雇用機会を生み出し、若手研究者や学生が地元で活躍できる場を提供している点が高く評価されたと考えています。
熊本大学の学生インターンを受け入れて有償インターンシップ制度を設けるなど、次世代人材の育成にも力を注いでいます。薬学部で研究者を志す学生に対し、「地元で研究を続けながら事業を起こし社会貢献する道もある」ことを示しており、その姿勢は新しい地方創生モデルとして期待されています。こうした取り組みから、C-HASプラスは「地域に根ざしつつグローバル展開を目指すスタートアップ」として自治体・大学・投資家から注目される存在となっています。
今後、技術のルーチン化が進めば、その業務を請け負う専門会社を熊本に設立する構想もあります。そこには新たな雇用が生まれ、地域経済への波及効果も期待できます。その際には、地域企業との連携や、熊本で雇用が生まれるような条件設定を行うことを視野に入れています。
こうした構想の根底にあるのは、「地方から価値を発信する」ことへの強い信念です。東京や海外だけが最先端ではない。熊本だからこそできる社会課題解決のモデルがあり、それを世界に示していくことに意義があると考えています。C-HASプラスはそのためのプラットフォームであり、実証の場でもあるのです。
利他の心と三方よしで、共に社会を変える仲間を求む
編集部:今の社員構成は?
菊池CEO:現在、役職員9名です。熊本大学薬学部の甲斐広文名誉教授(創業時の牽引役)や首藤剛准教授(線虫技術開発者)ら研究開発メンバーを中心に、バックオフィスや事業開発を担うメンバーがいます。熊本大学の学生もインターンとして関わってくれていて、実践的な経験が積める場にもなっています。

編集部:どんな人材を求めていますか?
菊池CEO:一言でいえば「利他」の精神を持った人です。自分の利益だけでなく、社会や仲間のために何ができるかを考えられる人。「利他」と「三方よし」の価値観が組織に浸透していれば、良いコミュニティが生まれ、協働が進み、自然と生産性が高まっていく。そういう土壌を一緒に育てられる人に来てほしいですね。
編集部:最後にCEOからメッセージをお願いします。
菊池CEO:「人生は一度きり。会社のためだけでなく、世の中のために働きたい」という強い思いがあります。66歳という年齢を迎え、残りの時間を社会貢献に使うことを大事にしています。C-HASプラスは、研究成果を社会に届けることを使命とする実装型ベンチャーです。そのため、研究者も「論文を書くため」ではなく、「社会を良くするため」に動ける人を歓迎しています。今後は、ルーチン化した評価業務を担う受託会社を設立する可能性もあり、そこでも地元雇用を生み出せたらと考えています。












TOP-500x329.jpg)

