熊本の未来をつくる経営者
 
	
熊本から世界の公衆衛生を支える、KMバイオロジクス株式会社の髙橋社長
髙橋洋匡(たかはしひろただ):KMバイオロジクス株式会社・代表取締役社長。埼玉県出身。東北大学大学院修了後、1993年明治製菓株式会社 (現Meiji Seikaファルマ株式会社)に入社。明治グループの製薬部門で生産技術畑を歩み、Meiji Seikaファルマ北上工場長、海外生産部長、生産技術部長などを歴任、2024年6月明治グループの執行役員を経て、25年6月KMバイオロジクス代表取締役社長に就任。
「信頼回復から飛躍へ」熊本から世界を支える医薬品インフラ企業
ココクマ編集部(以下、編集部):あらためて貴社の事業内容からお聞かせください。
髙橋洋匡社長(以下、髙橋社長):私たちKMバイオロジクス株式会社は、「ヒト用ワクチン」「動物用ワクチン」「血漿分画製剤」「新生児マススクリーニング」の4つの事業を行う国内唯一の製薬メーカーで、2018年7月に明治グループの一員として発足しました。
インフルエンザワクチンの供給は国内トップシェア、「シングルサプライ」製品(例:マムシ・ハブ毒の抗毒素血清やA型肝炎ワクチンなど)やオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)も数多く抱えており、日本の医療を下支えする存在でもあります。
KMバイオロジクスが有する高い技術力と、感染症治療薬のトップメーカーであるMeiji Seikaファルマ株式会社が連携することで生まれるシナジー効果により、「予防・治療のプロフェッショナル」として独自の価値を創出し、世界中の人々の健康で豊かな未来に貢献することが当社の使命だと考えています。
編集部:業績は右肩上がりですね。
髙橋社長:2024年度の売上高は約466億円で、2025年度の売上高も増収増益を見込んでいます。2018年の会社発足当初は、いろいろな課題が山積みしており『信頼回復』が最優先のテーマでした。特に血漿分画製剤に関しては、不合格品の多さやロットアウトの課題があったのですが、品質改善や製造プロセスの見直しを進めたことで、安定供給体制を確立できました。血漿分画製剤では2023年度の売上が100億円を超え、2024年度には120億円、現在(2025年度)では更なる成長を見込んでいます。
また、販売機能をグループ会社のMeiji Seikaファルマ株式会社に移管し、生産から販売までを一体で管理できるようになりました。これにより、お客様の声をタイムリーに反映できる体制が整い、営業活動の質も大きく向上しました。さらに、血漿分画製剤は薬価見直しによる価格上昇が売上にプラスの影響を与えています。国が進める「経済安全保障推進法」に基づき、当社が手がける製品の多くが「安定確保医薬品」として指定されており、製造体制の強化や原材料の確保に関する補助金支援も事業環境の追い風になっています。ワクチン事業においても、新型コロナによるパンデミックの教訓として平時の供給だけでなく、パンデミックなどの緊急時にも対応できる体制整備が求められており、我々としてもその責任を非常に強く意識しています。

事業戦略のキーワードは「安定供給の強化」と「グローバル化の加速」
編集部:今後の事業戦略をお聞かせください。
髙橋社長:ワクチン等の医薬品の安定供給体制をさらに整備するとともに、グローバル展開を最優先に推進していく方針を掲げています。
安定供給という面では、政府の支援を受けて新型インフルエンザ発生時に5,700万人分(国民の約半数)のワクチンを供給できる生産体制を構築するなど、社会的要請に応えるインフラを整備しました。また、2025年11月には菊池事業所で「デュアルユース対応の生産設備」の起工式を予定しています。これは平時には通常の製品、有事にはワクチンなどの緊急医薬品を迅速に製造できる体制を構築するための設備です。熊本から日本、さらには世界の公衆衛生を支えるという使命感のもと取り組んでいます。
グローバル展開に関しては、アジアをはじめ世界の医薬品アクセス向上を目指し、海外事業に強みを持つMeiji Seikaファルマ株式会社との「共創・一体運営」によって、グローバルに必要とされる医薬品を届けていく考えです。これまでは国内市場を中心に事業を展開してきましたが、今後は開発の初期段階から“世界市場を前提”とした製品づくりが求められています。特に現在注力しているのが、デング熱ワクチンやエムポックスワクチンといった感染症領域の製品です。これらは日本国内では市場が限定的であるため、初めから世界が舞台になる製品です。こういった感染症への対応はWHOとの連携が欠かせませんし、国際的な規制や流通も含めて、今までとは全く異なるスケールでの戦略が必要になります。私たちだけでは手が回らない部分もあるので、Meiji Seikaファルマ株式会社や外部パートナーとの連携が不可欠となります。
編集部:グローバル展開には相応の体制整備も必要かと思いますが、その点はいかがでしょうか?
髙橋社長:まずは社員の意識転換や人材育成、投資案件の優先順位付けなどを進めています。医薬品は非常に規制が厳しい業界です。製造や管理も含め、高いレベルのレギュレーション対応が求められます。日本国内の規制への対応はもちろん、各国ごとに異なる規制や国際基準にも対応しなければいけません。そのための設備対応や製造に関わるマニュアルの整備なども含めて、今から準備をしておかないと、本格的に製品が市場に出る段階では間に合いません。今はまさに、その「助走期間」に入っていて、社員一丸となって準備に取り組んでいる最中です。
編集部:海外企業とも提携されていますね?
髙橋社長:新たな開発テーマや投資対象を検討していく上で、国内市場だけを見ていても世界とは戦えません。現在、ボストンなどを拠点に、関連会社であるMeiji Seikaファルマ株式会社のネットワークを活用しながら、外部機関やベンチャー企業と連携した情報収集体制を整備しています。フランスのOsivax社との提携もそうですが、特に医薬品の開発においては、ベンチャー企業がシードを生み出し、大手が開発を引き継ぐというサイクルができていますので、まずは「どこに新しいシードがあるのか」を見つけ出すことが大事です。最先端の情報やデータがどこにあるのかを把握し、いち早く行動することを重要視しています。
世界にはまだ治療薬やワクチンが足りていない感染症がたくさんあります。そうした社会的課題に対して、私たちが技術と情熱を持って挑戦していく。それが、我々の存在意義だと思っています。熊本から、世界へ。技術も人材も、グローバルに通用する会社であることを示していきたいと考えています。

社員が誇りと使命感をもって挑戦できる企業文化を育む
編集部:国内から海外へ意識の転換が必要ですね。
髙橋社長:KMバイオロジクスという社名自体にも「熊本から世界へ」という思いが込められています。「KM」は“熊本”と“明治グループ”に由来しています。これは熊本発で海外展開していくビジョンを示したもので、バイオテクノロジーに特化したグローバル企業を目指す意志の表れです。熊本は古くから、熊本大学を中心にワクチン研究における先進地域であり、弊社にも優秀な人材がそろっていますので、世界に通用する製品と人材を育てる基盤があると確信しています。
編集部:グローバルに通用する会社になるために必要な人材像は?
髙橋社長:弊社が掲げている求める人物像は「Action・Challenge・Respect」です。社内外の変化に対応しイノベーションを起こしていくためには不可欠な資質と言えます。実際に、社内の仕事は研究・生産・営業など多岐にわたりチームで協力して進めることが基本です。様々な専門性を持つ人材がお互いの力を合わせて価値を創出する社風であり、社員が互いを尊重し合いながら主体的にチャレンジできる職場文化が醸成されています。
特に私は、『好奇心を持ってチャレンジを楽しめる人』に来てほしいと思っています。自分自身がそういうタイプだったということもありますが、明治グループの行動指針の中に「仕事をおもしろくする、おもしろい仕事を創る。」という言葉がありますが、これがすごく好きなんです。日々の選択や判断の中で“こっちの方が大変だけど面白そう”と思える人にこそ、弊社で活躍してほしいと考えています。

編集部:人材育成の取り組みはいかがですか?
髙橋社長:育成制度の一つに『清正プロジェクト』という全社的な取り組みがあります。『マネジメント能力の向上』『高度人材の選抜育成』『女性活躍推進』の3本柱で構成されていて、特に30代後半から40代の若手・中堅社員を対象に、意欲のある人にチャンスを与える仕組みにしています。選ばれた人材には実践的なカリキュラムを提供し、たとえば海外展開のプロジェクトにリーダーとして登用することもあります。
編集部:“失敗を許容する文化”も重要になってきそうですね。
髙橋社長:おっしゃる通りです。きちんと考えて、想いを持って挑戦してくれた提案なら、たとえうまくいかなくても責めません。むしろ、そういう“挑戦の芽”を応援できる組織でありたいと考えています。『こんなことやってみたい』という提案が自然と出てくるような環境にしていくのが、私の役割でもあります。現在は手挙げ制で進めていますが、ありがたいことに多くの社員が積極的に参加してくれています。男女問わず、誰もが活躍できる環境をつくりたい。いずれは『女性活躍』という言葉すら必要なくなるような、自然と多様性が活かされる会社にしたいと思っています。
編集部:キャリア採用も注力されていますね。
髙橋社長:現社員におけるキャリア採用の比率は低いですが、今後は経験を持った高度人材の登用にも注力していきます。グローバル展開に対応するためにも、社内での育成と並行して、外部の力も積極的に取り入れていく必要があると考えています。その一環として、2026年度からは新たな人事制度(従来の年功序列ではなく、実績とチャレンジをしっかり評価する『等級型人事制度』)を導入予定です。思い切って制度設計を見直し、『挑戦を評価し、結果に報いる』会社に変えていきます。
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「熊本から世界へ」の想いに共感し、挑戦したい方はぜひご覧ください。








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