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食と健康を支える麦のスペシャリスト。穀物の新たな可能性を磨き、全国へ発信!西田精麦の西田社長

食と健康を支える麦のスペシャリスト。穀物の新たな可能性を磨き、全国へ発信!西田精麦の西田社長

西田啓吾(にしだけいご):西田精麦株式会社・代表取締役社長。八代市出身。大阪府立大学工学部から東京大学院工学系研究科へ進み、卒業後、野村証券系ベンチャー企業・㈱ジャフコで勤務。2009年西田精麦へ入社し、2016年に33歳の若さで4代目社長に就任。

大麦の精麦は難しい。だからこそ強みになる

ココクマ編集部(以下、編集部):事業内容を教えて下さい

西田啓吾社長(以下、西田社長):1929年の創業以来、穀物の加工一筋に歩んできた会社です。「穀物を磨き未来を創る」という理念と、「笑顔をあなたの食卓に」というミッションの実現のため、日々挑戦を続けています。具体的には、麦焼酎や麦味噌の原料となる醸造用精麦事業、A飼料(牛専用飼料)を供給する飼料事業、炊飯用麦やシリアルなど食品事業を手掛けています。それぞれ生産量は業界トップクラス。最近では、もち麦、ハト麦、オーツ麦といった、機能性の高い健康に良い麦の加工も手掛けています。

編集部:大麦に軸足を置いてきた理由は何ですか?

西田社長:大麦の加工はとても難しく、大麦の加工ができる会社は全国に十数社しかありません。例えば穀物を磨く工程の場合、精米は一般的に2台の機械を使用しますが、当社は11台の機械を使用しています。大麦は少しずつ負荷をかけないように削っていかないとバリバリに割れて商品にならなくなるんですよ。これまで積み重ねてきた加工技術と生産設備は、他社では真似することができない弊社の強みとなりました。戦略的にもこの強みを生かす経営を行ってきた結果、大麦に特化した会社となったのです。逆に言うと、大麦の精麦ができるということは、どんな穀物の加工ができるということです。最近では、大麦の加工技術をオートミールの加工に転用するなど、精麦技術を他の穀物にも活かしているところです。

編集部:熊本県産の大麦の9割を加工されているとか

西田社長:地元・熊本の農家さんとはコミュニケーションを密にとり、種をまく前に契約をして栽培してもらっています。当社にとって農家さんはなくてはならない存在ですし、当社は農家さんにとっても、なくてはならない存在になりたいと考えています。取り扱う素材は、体に優しい安全安心な原材料を、自分たちの目でしっかりと確かめて調達しています。また、自社で農業法人も運営しており、わたしたち自身でも一から穀物を育てています。だからこそ、農家さんが大事に育てた穀物を、最後まで大事に食卓にお届けしたい。そのようなこだわりをもって、日々取り組んでいるのです。

編集部:「九州大麦グラノーラ」はどのようにして開発されたのですか?

西田社長:入社した時に先代社長から、新しい事業を立ち上げるよう言われてきました。いろいろと試行錯誤をした結果、7年前に「九州大麦グラノーラ」が完成しました。これまで「麦は炊飯して食べるもの」という固定観念が自分の中でもあったのですが、グラノーラの原料はオーツ麦。だったら大麦でもできるのではないか?というところからスタートしました。当時グラノーラの市場は急成長していましたので、時流にものり大ヒット商品となりました。

その時に、「大麦ってすごいな!」と改めて可能性を感じました。ちょうどその頃、大麦の機能性も注目され始めていたんですよ。大麦は、βグルカンという水溶性の食物繊維がすごく豊富なんです。そういう機能性の高い穀物を取り扱っていて、しかも、そのまま食べられるような加工もできるんだ!と分かってきて、食品としての可能性が開けたことで食品事業に力を入れ始めたのです。

西田精麦_西田啓吾

編集部:通販を始められましたね。

西田社長:今年の2月に、日本初のオーダーメイドグラノーラ&ミューズリー通販専門店“Lively Muesli!”をグランドオープンしました。個人の好みでオリジナルのグラノーラをつくることもできますし、腸活ブレンドや、美肌ブレンド、男性向けには高タンパクのブレンドなど、いろんなテーマごとのブレンド商品も用意しています。今後、寝つきが悪い…、お腹周りが気になって…などのお悩みに対して、カウンセリングしながら商品提案ができるようになれば面白いと思っています。

これまでOEM生産やPB商品の製造が中心ですから、消費者の声を聞く機会がほとんどなかったんです。通信販売ではエンドユーザーと直接つながる機会があるわけですから、そこから得られる情報をこれからの商品開発や提案につなげていきたいと考えています。来年1月には実店舗を出す準備もしています。

1人1人が考える組織になるために、役職を撤廃

編集部:役職を廃止されたとか…

西田社長:3年前に理念を変えたタイミングで組織体制も変更しました。役割や責任は基本的にフラットになっています。若手もベテランも、どんな立場の人でも自分の考えを当たり前のように発信できて、それを受け止める人が周りにちゃんといる組織にしたかったのです。不確実な時代、考える人が自分1人だったら道を間違えるなと思ったんですよ。考える人が多ければ多いほど、強い会社になりますよね。

また、「穀物を磨き 未来を創る」という新しい理念を作った時に、言葉だけを変えても、毎日唱和する言葉が変わるだけで、実際の行動が変わらなければ意味がないと考えました。この理念を実現するために組織の在り方を考えようと社員に呼びかけたところ、15人が参加してくれて、半年くらい議論してこのような組織になったわけです。「穀物を磨くためには、自らを磨き、互いを磨き合う」ことが大事だと社員には伝え続けています。磨くということは、成長していくということ。自分自身を、少しでもよりよい未来に連れていこうと呼びかけています。

編集部:理念を変えたのは、なぜですか?

西田社長:以前の理念は、「地球的な視野に立ち、良いものを安く創造し、社会に貢献する」だったのですが、特に、「良いものを安く」ということが合言葉みたいになっていたんです。それはそれで当社の強みでもあったのですが、「良いものを安く」を徹底していくとどうしても、効率化とかコスト削減とか、数字を追いかける経営になってしまっていて、私が入社した時はすごく閉塞感というか、きゅうくつさを感じたのです。

皆さん頑張っていて、業績も良いのにすごく表情が暗いというか、しんどそうに仕事をしている会社に見えたのです。なぜだろうな?とずっと考えていて、気がついたんですよ。「安さ」も1つの価値なんだけど、今の時代は「安さ」以外の価値もたくさんある。意識を変えないといけないと思っていたので、自分が社長になったタイミングで理念を変えました。

編集部:会社の雰囲気は変わりました?

西田社長:明るくなったと思いますね。社外の人からも、「事務所がめちゃくちゃ明るいねぇ」とか、「笑顔がすごく多いね」と言われるんで、やっぱりいい方向に変わってきているのかなとは思います。女性の社員も増えましたし、離職率も減りました。以前の製造現場は厳しく、徹底したコスト管理や効率管理に取り組んでいました。それでいて1人1人に仕事を教える時間はあまり取っていなかったので、4、5年前までは、採用しては辞めるのくり返しでした。

編集部:組織を変えて、どんな成果がありましたか?

西田社長:一番わかりやすいのは、業績が上がってきていることです。組織を変えたという要因だけではないとは思いますが、やっていることが間違ってはいないという事かなと思っています。加えて、若手が成長していますね。今までは役職者や管理職が判断して、周りを動かしていました。だから結果的に、考える人が少人数になってしまっていたんですが、今では権限を完全に委譲しているので、誰でも判断できるようになっています。今は社内のあちこちで同時多発的にいろんなアクションが起こっている感じですね…。以前と比べると変化の数が多いし、スピードも相当速くなりました。新たな課題が出てきたり、失敗もあるんですが、それも含めてOKだと思っています。

西田精麦_西田啓吾

編集部:社長の決裁が必要なものもありますよね?

西田社長:ないです。ただし、意思決定の際には助言制度を活用するというルールがあります。これは意思決定に影響を受ける全ての人から、事前に助言をもらいましょうという制度です。何か大きな投資をするときは、なぜこの投資が必要なのかを発信します。それに対して周囲からアドバイスをもらって、その結果を踏まえて最終的な意思決定は誰でもできるのです。なので、数千万円の投資を決める若い社員もいます。このルールは私も同じですから、社長だからといって1人で勝手に物事を決めることはできません。

編集部:会社の透明性が必要ですよね?

西田社長:現在の売上状況や誰がどういう費用をどこで使っているのかなど、全ての数字を完全にオープンにしています。情報も完全に共有していますから、考えようとしている人が増えているのだと思います。また、業績が上がれば、全員に均等に賞与で分配するルールもありますから、昨日より今日、昨年より今年、とより良くなるよう皆が考えてくれたらいいなと思っています。

世界には、磨けば光る穀物がまだまだ眠っている

編集部:今後のビジョンを教えてください

西田社長:昨年5月に、「健幸穀物で世界中のつくるをつなげる」という新しいビジョンを掲げました。今までずっと穀物の加工をやってきたんですが、誰にでも簡単に持ってこられる穀物と、うちが最初から携わって作り上げた穀物というのは、付加価値が全く違うんですね。この穀物は西田精麦しか扱っていないとか、西田精麦しかできないとか、そういう価値の高い穀物を私たちは「健幸穀物」と新たに定義をして、世界中につなげていく。その結果として、食卓の笑顔や幸せを作っていければいいなと考えています。

西田精麦_西田啓吾

編集部:ビジョン実現のためにどんな取り組みをされていく予定ですか?

西田社長:今私が力を入れているのは、世界中に眠っている健幸穀物を見つけることです。先々週もオーストラリアへ行って新しい穀物を開拓してきましたし、再来週はカンボジアへ行ってきます。以前はミャンマーでハト麦も栽培していました…。

今は「熊本の西田精麦」だけど、100周年を迎える2029年には「日本の西田精麦」になっていたい。そして110周年の時には「アジアのNISHIDA」。120周年の時には「世界のNISHIDA」になろうよと、社員さんともビジョンを共有しています。

編集部:磨けば光る穀物が、世界にはまだあるわけですね?

西田社長:あります。海外に行けばいくほど、めちゃめちゃ面白い穀物が見つかってきます。オーツ麦もそうなんです。現地でパートナーが見つかって、一緒にやっていきましょう!となったとたん、この2年でオーツ麦の市場規模は7倍8倍に伸びているんですよ。他の会社ができていない、磨けば光る穀物を見つけて、食卓までつなげていけば、西田精麦にしかできないことがたくさん生まれてくると思っていますね。

※写真撮影時のみマスクを外しています。

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