熊本の未来をつくる経営者
「世界でいちばん居心地のいい空港」を目指し、前例のないチャレンジをつづける熊本国際空港株式会社の山川社長
山川 秀明(やまかわ ひであき):熊本国際空港株式会社 代表取締役社長。長野県出身。早稲田大学卒業後、1986年に三井不動産株式会社へ入社。東京ミッドタウンなど大規模複合開発に従事。以後、2001年4月開発企画室課長、2008年4月東京ミッドタウン事業部グループ長、2009年4月広報部グループ長、2017年4月開発企画部長兼豊洲プロジェクト推進部長、2019年秘書部長などを歴任。23年4月から熊本国際空港株式会社執行役員社長補佐、同年6月に代表取締役社長就任、現在に至る。
どこにもない空港を、どこもやらない方法で創り出す
ココクマ編集部(以下、編集部):まずは御社の事業内容について教えてください。
山川秀明代表取締役社長(以下、山川社長):熊本国際空港株式会社は2019年に設立された、阿蘇くまもと空港の運営を一体的に担う空港運営会社です。国が所有する空港を民間が長期にわたり運営する「コンセッション方式」を採用し、滑走路の維持管理、旅客ターミナルビルの運営、駐車場管理、商業施設の企画・テナント誘致、航空会社への路線営業、国際航空貨物の推進など、航空管制を除くすべての機能を統括しています。
2023年に開業した新旅客ターミナルビルは、国内線と国際線の機能を一体化し、利便性と収益性の向上を図りました。また、搭乗直前まで買い物や食事を楽しめる、国内最大級の「滞在型ゲートラウンジ」を整備し、空港での過ごし方を劇的に変えました。2024年10月には「そらよかエリア」が開業し、旅客だけでなく地域の方々にも日常的に利用していただける空港へと進化させています。
編集部:会社設立の経緯など教えてください。
山川社長:きっかけは2016年の熊本地震です。阿蘇くまもと空港のターミナルビルは甚大な被害を受け、機能が3日間ストップしました。この教訓を生かして、より良い空港へと進化させるべきではないか…そうした議論が熊本県を中心に進められ、“創造的復興のシンボル”として地域活性化の起爆剤となる再整備が行われることとなりました。
編集部:そうでしたね・・・。そこで浮上してきたのがコンセッション方式なのですね?
山川社長:民間のノウハウやスピード感を活かして成長させていく。熊本空港は、全国の地方空港の中でも比較的早い段階でこの方式に挑戦することになりました。実は、私自身、三井不動産に在籍していた当時から、この空港コンセッションの検討に関わっていたのです。11社による共同企業体として、「世界と地域にひらかれた空港」というコンセプトのもと、「ターミナルビルをより良いものへと進化させる」という復興ビジョンを提案。結果として採択され、2019年4月に熊本国際空港株式会社が設立されました。

世界と地域にひらかれた九州セントラルゲートウェイ
編集部:旅客数や業績が非常に好調ですね。
山川社長:国際線利用者の伸びが大きいですね。2024年度が48万人で、2025年度は60万人程度を見込んでいます。国際線が伸びている要因は路線拡大です。熊本国際空港にはエアポートセールス部があり、私も含めて熊本県と連携しながら各国のエアラインに対して営業活動をしています。2026年2月現在は台湾・韓国を中心に5路線週41便の運航があり、この便数は地方空港の中でもトップクラスです。3月からはさらにスターラックス航空の台中線が就航します。これで台湾は台北・台中・台南・高雄の4都市とつながります。台中線は九州で初めての路線であり、台南線は台南空港にとって日本との初めての路線ですので、熊本と台湾との結びつきの強さを象徴していると感じています。
編集部:国際線の利用者はインバウンドが中心ですか?
山川社長:ほとんどはインバウンドで、アウトバウンド(日本からの海外旅行者)はわずか1割です。熊本県のパスポート取得率は11.4%(2024年)で、全国平均17%よりも低くなっています。そこで熊本県と連携し、アウトバウンド促進キャンペーンを実施しました。パスポートの新規取得・更新や乗継利用に対する助成を行うことで若者を中心とした海外旅行を後押し。双方向の人流があってこそ、路線は維持できます。若い世代が海外に出て異文化に触れることは非常に価値があり、多様な海外文化に触れることで改めて熊本の良さにも気づいてほしいとも考えています。
編集部:それも空港の仕事なんですね。
山川社長:私たちの仕事は、大きく言うと空港の利用者を増やすことです。コンセッション方式で縦割りの組織ではないため、各部署間で連携しながら、前例のないことにも挑戦しています。例えば、ビル運営部ではテナントの管理のみならず、屋外広場を活用したイベントを企画運営しています。ここに、利用促進や需要創造を担う営業推進部、地域とコミュニケーションを図る地域連携部などが協働します。前述しましたが、路線拡大や営業活動を行う専門部署もあり、業務の範囲はかなり広いですね。
編集部:今後の展望について教えてください。
山川社長:2051年ビジョンとして、国際線17路線、旅客数622万人を掲げています。現在は約370万人ですので順調に推移しています。目標達成のためには路線拡大が必須。そのため海外空港との連携も強化しています。韓国の仁川国際空港、台湾の桃園国際空港と連携協定を締結し、お互いの空港で熊本フェアや台湾フェアを開催するなどのプロモーションを実施しています。TSMC進出などで熊本の国際的な注目度が高まる中、空港もアジアと熊本を結ぶハブとしての存在感を強めていきたいと考えています。
さらに、人流だけでなく物流の強化も重要な柱です。2025年には国際航空貨物を扱う上屋を整備しました。これにより、関西国際空港までトラック輸送していた熊本県産農産品を、熊本空港から直接アジアへ輸出できるようになりました。輸送コスト削減やCO₂排出削減につながるだけでなく、鮮度を保ったまま海外市場に届けられる。半導体関連製品の輸出にも対応し、地域産業の成長を後押ししています。

新しい文化と風土を創り出し、世界一の居心地の良さを追求する
編集部:空港の運営においては多くの人の力が必要になるわけですね。
山川社長:「訪れる人も、働く人も、笑顔になれる、世界でいちばん居心地のいい空港になる」というビジョンのもと、みんなが日々の業務に取り組んでくれています。阿蘇くまもと空港では弊社のほか、航空会社やグランドハンドリング事業者などを含めて約1,000人のスタッフが空港運営を支えています。スタッフが笑顔でなければ、安全・安心・快適など提供できるはずがありません。
DXの推進にも力を入れています。ターミナル内に設置している防犯カメラの状況確認に、AI警備システムを導入しました。人の転倒や置き去り荷物、不審行動などを自動検知し、即座に警備員へ通知する仕組みです。これにより安全性を高めると同時に、人的負担の軽減にもつながっています。この他、東海大学と滑走路の草の有効活用を検討したり、草刈りロボットを導入したり、いろんなことを試しています。行政主導では導入に時間を要する場合もありますが、私たちは「まずやってみよう」と迅速に判断できる。これもコンセッション方式の強みです。
編集部:組織面の特徴について教えてください。
山川社長:経営企画・財務部、総務・経理部、営業推進部、エアポートセールス部、地域連携部、ビル運営部、運用部、施設部、保安防災部、内部監査室など、社内には様々な部署があります。おそらく、こんなことまでしているのですか?と驚かれると思います(笑)。
現在の弊社の従業員数は約100人ですが、バックグラウンドは実に多様です。長年、熊本空港のターミナルビル会社で働いてきた地元出身のメンバーが約3分の1。三井不動産や九州電力など、株主企業から出向してきているメンバーが約3分の1。そして残りの3分の1は、コンセッションという新しい挑戦に魅力を感じて「ここで働きたい」と入社した中途・新卒社員です。
都市型再開発の経験者や他空港のノウハウを持つ人材、そして地元を熟知した人材が同じテーブルで議論をしている。ある意味、地方にいながら高度なダイバーシティが成立している組織だと思います。
実際、社員の「こんなこと、できないですか?」という一言から、新しい挑戦が始まることも多々あります。滑走路でマラソンをやる、AI警備システムを導入する、海外空港と連携する—。従来の空港運営の枠にとらわれない発想は、多様な視点が交差するからこそ生まれるものです。異なる文化や経験を持つ人材が連携することで、単なる足し算ではなく「掛け算」の効果が生まれていると感じています。

編集部:求める人物像はどんな方ですか?
山川社長:もちろん専門性は大切です。安全管理、営業、財務、DXなど、それぞれの領域での知見は必要です。ただ、それ以上に重視しているのは想いです。「地域インフラを支える仕事に挑戦したい」「熊本から世界につながる舞台で力を発揮したい」「前例がなくてもやってみたい」―そうした想いを持っている方と一緒に働きたいですね。当社は完成された組織ではありません。今まさに、会社としての文化をつくっている最中です。
将来的にはプロパー社員中心の組織へと移行していきたいと考えています。若い世代が幹部となり、この空港の未来を担っていく。そのための人事制度の見直しや育成の仕組みづくりも進めています。
編集部:最後にメッセージをお願いします。
山川社長:空港会社の仕事というとイメージが湧きにくいかもしれません。安全を守り続けること、日々のオペレーションを丁寧に積み重ねること、地域との信頼関係を築くこと…こうした堅実な取り組みの一つひとつが空港の価値を支えています。一方で路線拡大や海外連携、新たなイベントの企画といった大きな挑戦を進めていくのも空港の役割です。その両方が共存しているのが、弊社の醍醐味かもしれません。
空港は単なる交通拠点ではなく、人の夢や挑戦、地域の未来を運ぶ場所です。そして、その舞台をどのようにつくり上げ、どう成長させていくかは、私たち次第です。「熊本国際空港という新しい文化を、一緒につくってみたい」。そんな志を持った方と、この挑戦を共有できたら嬉しいですね。








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