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熊本大学認定ベンチャー企業。独自のセンサー技術で世界のものづくりの安全を支える 株式会社CASTの中妻社長

熊本大学認定ベンチャー企業。独自のセンサー技術で世界のものづくりの安全を支える 株式会社CASTの中妻社長

中妻啓(なかつま けい):株式会社CAST・代表取締役。東京都出身。東京大学工学部計数工学科卒業、東京大学大学院情報理工学系研究科にて博士(情報理工学)取得。2012年熊本大学大学院先端科学研究部助教。2019年9月株式会社CAST共同創業・代表取締役就任。

「あらゆる場所にセンサーを」を基本理念に掲げ、製造業の課題解決につとめる。

ココクマ編集部(以下、編集部):CASTとはどんな会社ですか?

中妻啓社長(以下、中妻社長):「あらゆる場所にセンサーを」を基本理念に掲げ、私たちのコア技術である「薄型センサー」を活用した、製品開発を進める熊本大学認定のベンチャー企業です。特に製造業の課題解決に注力しており、2022年には念願の「配管減肉モニタリングシステム」をリリースしました。

工場内の配管は、長年使用していると「減肉」といって“管がすり減って薄くなってしまう現象”が起きます。この減肉を監視し、把握するためのシステムが「配管減肉モニタリングシステム」で、CAST独自のコア技術、”耐熱・フレキシブル・薄型”を最大限活かした製品になります。工場の現場では、設備の老朽化や検査員の不足による、監視不十分が原因の漏洩・爆発事故が年々増加しています。一方、通常行われている半年~1年に1回の定期点検では、高温・高所・狭所などの過酷な環境の中で検査装置を持った人の手による検査が主です。ここに、常時かつ遠隔からのモニタリングを導入することで、人がセンサーを手に持ち危険な場所で検査して回るという製造業の苦役解消を実現し、事故防止及び検査の負担を低減し設備寿命伸長を実現することに貢献できると考えています。

編集部:なぜ「配管」に着目したのですか?

中妻社長実はCASTのコア技術はさまざまな分野への進出が可能だと考えています。その中でいち早く製造現場の「配管」に着目したのは、とくに課題やニーズが大きいと感じたからなのです。危険な場所でのメンテナンスや管理は1か所ではありません。限られた時間のなかで、細心の注意を払いつつ数多くの場所でメンテナンスを進める必要があります。工場の機械を止めて作業を行う時はなおさら、焦る気持ちを抑えて作業をしている人もいるのではないでしょうか。常にモニタリングできるシステムを設置できれば、危険ととなり合わせの作業は最低限になります。CASTはコア技術を研究していた20年以上前から、主要な用途のひとつとして「配管減肉測定」を考えていたのです。お客様のニーズとCASTのノウハウの一致もあり、配管に常設する商品から開発を進めることにしたのです。ただ、CASTのセンサーそのものは汎用性が広いため、他分野での開発も並行して進めています。

CAST_中妻啓

順調な資金調達と特許技術でIPOを目指す

編集部:会社設立の経緯を教えて下さい。

中妻社長私は、熊本に縁もゆかりもなく、2012年に熊本大学の助教として着任しました。私はセンサーそのものというより、「皮膚感覚」といって触覚に関する研究をしていました。ロボットの表面に取り付けられるセンサーがないかを、熊本大学に着任したときには考えていたんです。2014年頃、共同創業者の1人である熊本大学の小林准教授(現熊本大学教授) と出会い、CASTのコア技術である「ゾルゲルスプレー法」を知り、一緒にプロジェクトを始めたのが原点です。

法人化への大きな転機の一つは、2017年に開催された「熊本テックプランター」に参加したこです。ピッチに立つために、ビジネスモデル・事業計画・事業プランを立て、そのためのマーケティングを行う中で、このセンサーによって解決できる課題があることを知りました。もう一つは、これを事業化するのは自分達にしかできないと思い始めたからです。2018年には熊本大学が大学発ベンチャーなどに関する認定制度を制定、同年QBキャピタルから「熊本大学における圧電センサー事業化プロジェクト」にプレ投資を受け、会社設立に至りました。量産に向けた研究や商業化の一歩手前まで、大学の中で企業さんと共同研究などを行っていましたが次のステップに行くには法人化が必要でした。徐々に大学内でできることを超えてしまったのです。

編集部:経営者への意識の切り替えは?

中妻社長会社を設立すると引き合いも多く、一緒にこの事業を大きくしてこうというパートナー企業さんやサポートしてくれる方々が現れてきます。このビジネスを成功させるには、どうしたらよいのか?自分は何をすればよいのか?会社としての方向性、事業を進めるというのを考えるようになって。それで徐々に、経営的なところを考えるようになった感じです。

編集部:会社設立から、リリースまではどのような期間でしたか?

中妻社長センサーのコア技術はあったんですが、全然実用化レベルではなかったのです。耐久性や歩留まり・品質向上など、大学が持っている技術とそれを商品にしていくっていうところのギャップをまず埋めるっていうことを最初に取り組みました。

「配管減肉モニタリングシステム」ですから、センサー以外にもパルサーレシーバーなどの周辺機器やクラウドなどの整備、ソフトウェア開発も必要になってきます。それと同時に、製造や量産化のプロセス開発、コスト削減のための材料の検討などを進めていました。

CAST_中妻啓

編集部:今回の資金調達の目的は?

中妻社長リアルテックファンドと肥銀ベンチャーファンドからJ-KISS型新株予約権の発行による資金調達により、4000万円の資金調達を実施しました。 これは高温部・狭所にも常時つけっぱなしが可能な工場向け配管減肉モニタリングシステムなど、実証先の確保や技術開発の加速が目的になりますが。

編集部:熊本大学から特許を譲り受けたとか…

中妻社長そうなんです。2022年11月に、熊本大学単独特許3件、および熊本大学と弊社との共有特許1件、合計4件の熊本大学持分を全て譲り受けました。この特許群は、弊社センサーの特徴を裏付ける ①センサーの量産を実現する製造方法、②高温耐熱性を有し、かつ有害な鉛を含まない事から環境負荷低減を実現する膜生産方法で、いずれも弊社の今後の製品開発や事業遂行にとって重要な決定となりました。

CASTでの経験が自分の市場価値を高めることに繋がっていくことを意識してほしい。

編集部:今後の事業展開について教えてください。

中妻社長まず売上1億円を早期に達成し、2027年には売上10億円を目指します。ここ数年はお客さんのニーズを掴み、ある程度の市場シェアを獲得する段階だと考えています。そのために開発・販売・コーポレート体制を確立していくことが重要です。さらに2035年には売上1000億円のビジネスを生み出したいと考えています。配管モニタリングシステムをコアに、販路拡大・収益性の確保・付加価値を高める。日本では顕在化している課題ですが、世界共通の課題だと認識しています。

編集部:どのような組織を目指しているのか?

中妻社長自分の仕事を一つに限定せず、少しずつでも新しいことにチャレンジし、自分の可能性を拡げていくような社員がたくさんいると、強い組織が出来上がるんじゃないかと思っています。

例えば、技術的な部分だと、センサーを作るという意味では材料・無機化学などの技術・知識は必要になるし、機械設計も必要になる。制御ユニットでいうと電子機器なので組み込み・回路設計、電子機器のアセンブリ技術、そこからデータが上がってくるためソフトウェア・通信・ネットワークなど、結構幅広い知見が必要になります。CASTはベンチャー企業ですから、埋まらない部分を勉強しながら、自分が担当できる範囲を少しずつ増やしていくってことが必須でもあるのです。

編集部:会社のカルチャーは?

中妻社長特別な考え方を全体に共有するようなことは敢えてしていません。今は全体を見渡せる規模ですので、みんなが全体にとっての最適解を考えてくれたらよいなと考えています。仕事に対する取組み方や向き合い方は、人それぞれ軸があるから多様性があった方がよいとも思うし…。

企業理念である「あらゆる場所にセンサーを」に向かっていく道筋や戦略はある。しかしそれに対する向き合い方は個々にあって、働き方やマネジメントの仕方に強いカルチャーを浸透させようとは今のところ思っていません。異質な人が入ってきてもOK。私自身もあまり縛られたくないので(笑)。他の人に自分のやり方とか考え方を押し付けるようなことはなく、自分のやり方でやっていきましょうという人が揃っている、けれども、プロジェクトとしての方向性はあるので、それに向かって進むよう責任を果たしていく。プラス自分の価値をその中で高めていくというのが大事かなと思います。

編集部:ギラギラしてませんね(笑)

中妻社長そうですね。よくわからないルールとか合理的じゃないものが嫌いなんです。自分の裁量の中で決めれば解決することでしょ。みたいなことを敢えてルール化するのはあまり好きじゃないですね。そういう意味では自由な社風ですかね。

CAST_中妻啓

編集部:今後の採用に関してはいかがですか?

中妻社長資金調達のもう一つの目的が人材調達です。具体的に言うと、システム設計や回路設計、事業開発のポジションの採用を進めていきたい。エンジニアに関してはメンバーも揃ってきてはいますが、もっと増強していきたいですね。特に注力したいのが事業開発です。お客様のニーズや課題を引き出し、テクノロジーで解決できる製品をプロダクトしていくような業務です。お客さんとのやり取りの中でこういう形にしないと売れないとか、これを作ったらもっとお客さんは喜んでくれる、そうするともっと高く売れる、もっとたくさん売れるという形に持っていく。それをやるための仕組みを作っていかなきゃいけないと。研究開発型のスタートアップ企業のビジネスモデルを創り上げる方ですね。

色々なバックグラウンドを持った人にぜひ参加していただきたいなと。徐々にいろんなドメインの知識や文化が持ち込まれて、成長していくのも面白いところかなと思います。

編集部:IPOは考えてますか?

中妻社長もちろんです。IPOしないと1000億円には到達しないと思います。メーカーとして緩やかな立ち上がりをしていくってところはいけると思うんですけれども、IPOをして、積極的に周辺技術を獲得していかないといけないなと。工場管理には多種多様な情報を取得して活用してかないといけません。「配管減肉モニタリングシステム」だけでは世の中のお役に立つことができませんので、それなりの資本力であるとか、拠点展開も必要かもしれません。今時あんまり関係ないかもしれないですけど、信用みたいなものも大事かなと思っています。

※写真撮影時のみマスクを外しています。

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