熊本の未来をつくる経営者
「食」から「くらし」に事業領域を拡大、新たな取り組みで持続的な発展を目指す。株式会社木村グループ本社の木村社長
木村寿孝(きむらとしたか):株式会社木村グループ本社 代表取締役社長。京都大学経済学部卒業後、JFEスチール株式会社入社。人事部で6年間の勤務を経て、2017年熊本へUターン。同年、株式会社木村入社。19年取締役、20年取締役専務執行役員、22年7月㈱木村代表取締役社長就任。23年5月より現職も兼任。
23年5月㈱木村グループ本社設立、グループの強みを活かし売上400億円を目指す
ココクマ編集部(以下、編集部):㈱木村グループ本社設立の狙いを教えてください。
木村寿孝社長(以下、木村社長):事業会社の経営支援を手掛け、グループシナジーを高めることが最大の目的です。㈱木村をはじめとしたグループでは、現在8社で主に3つの事業を展開しています。「あられ」を中心とした米菓や、和菓子、洋菓子、土産品の企画・製造・販売を行う『製造事業』、九州一円と一部中国エリアのお得意先様へ、全国のお菓子メーカー様から仕入れた流通菓子、九州を中心としたブランド米の商品の販売、及び病院・保育園等へ業務用食材の販売・納品を行う『卸売事業』、食料品の保管・仕分け・配送のほか、重機類運搬・日用品・家具の仕分けや配送を行う『物流事業』です。
これまでは『卸売事業』が売上、利益ともにグループの軸となって事業運営を行ってきましたが、『製造事業』と『物流事業』を更に成長させていこうと考えています。卸売・商社機能にメーカー機能と物流機能も併せ持つことで、自分たちにしか創れないものを創り、自分たちで販売・配送するなど、当社グループだから手掛けることが出来る製品・サービスを提供することで、他社との差別化を図りつつ、お得意先様やお取引先様にとって便利で「一緒に事業活動をやってみたい」と思われる、価値のある企業グループでありたいと考えています。
新設された事業持株会社である㈱木村グループ本社は、当社グループ全体の企画・人事総務・財務経理・システムなどの経営支援系の事業・業務を担います。業務効率化の促進、グループシナジーの発現、更なる付加価値の創造などの面で事業会社を手助けし、2025年度にはグループ売上400億円を達成したいと考えています。
編集部:昨年は企業理念・行動指針を刷新されましたね。
木村社長:2022年5月、私が㈱木村の社長に就任する少し前に、グループ共通の企業理念と行動指針を発表しました。「私たちは誠実さを第一に、『日々の豊かな“くらし”を創る』ことに挑戦し、地域社会に貢献します」が新しいグループ企業理念です。背景としては、事業環境の変化や事業領域の拡大もあり、従来の企業理念・行動指針では時流に合わなくなってきたのです。また、これまでグループ会社毎に企業理念・行動指針が存在していましたが、グループ全体で事業を継続的かつ健全に運営していくためにも、ベクトル合わせが必要だったのです。
編集部:目的は?
木村社長:私自身2017年に入社し、これまでグループ全体の「仕事の仕組みづくり」を中心に取り組んできました。「働き方改革」にも繋がるのですが、仕事の仕方を標準化・効率化し、より付加価値を出せる仕事に注力していこう、というものです。ただ、グループ内で仕事の仕組みができても、結局は仕組みを使う人の考え方や姿勢次第。「何のために仕事をやっているのか?」をしっかり理解してもらい、自分事化してもらわないと上手く仕組みは回らないことを痛感しました。
企業理念に関しては、日々、朝礼で唱和していましたが、従来の内容では普段の仕事・行動に活かせていないのでは?と感じていました。企業理念や行動指針をベースに仕事に集中して取り組むことで、結果がついてくると思っていますが、日々上司から売上・利益のことばかりを言われ続けると、社員も考え方と現実の行動の矛盾を感じますよね。
ですので、今回の刷新を機に、グループ企業理念・行動指針の浸透に合わせて、考え方の順序を変えてもらうことにしました。当社グループで働くに当たって、企業理念・行動指針と10個のルール・マナーはしっかり守ってください。これに準拠していれば、おのずと売上・利益は付いてくるはずで、仕事の中で何に挑戦してもOKですよ、ということです。
編集部:シンプルですね。新しい企業理念にこめた想いは?
木村社長:一番想いがこもっているのは「誠実」という部分ですね。「コンプライアンス」や「正直さ」を何よりも優先すると宣言しています。「誠実」をベースに、「食」だけではなく「日常生活」すべてを対象とした事業運営・展開に挑戦する、ということです。
この企業理念や行動指針はグループ横断で組成したプロジェクトチームで策定したんです。グループ各社の課長クラスから10名程選抜し、日々現場で感じていることやこれまでの企業理念・行動指針に足りないもの、これから大切にしなければならないことなどの意見を出してもらい作り上げました。自分たちが「こうだよね」と思えることであれば仕事で実践するでしょうし、作成に関わったメンバーが各社、各事業部に戻り、想いや背景をしっかり伝えてくれたらよいなあと思います。
自ら考え行動する集団へ、企業理念・行動指針の浸透をはかる
編集部:期待することは?
木村社長:仕事への取組み姿勢ですかね。仕事を単なる作業と捉えるのではなく、何か前向きなことを考え、プラスαを付加しながら取り組んだ方が絶対楽しいですよね。現在、卸売・製造の事業では業務日報を毎日簡潔に書いてもらっていますが、単なる業務報告だけではなく、一日を振り返った時に、昨日よりできていることや成果が出ていること、反対に上手くいかなかったことなどに気づいて欲しいんですよね。
「気づき」の感度を上げることで、色々なことに目を向けるようになると思うのです。お得意先さまの変化にも気づき、新たな提案が出来るようになるし、新たな事業機会についても気づけるかもしれない。そうするとさらに○○したい!という欲求も出てきますよね。
編集部:この1年の手応えはいかがですか?
木村社長:グループ内の風通しが少しずつですが良くなってきたと思います。私がこの1年間やってきたことには大きく3つあります。1つ目は、前述した日報ですね。上司は毎日、日報を確認し、コメントを返します。内容によっては翌日、直接会話をして認識のズレなどが無いか確認しています。ですから、上司とのコミュニケーションの機会は増えていますし、部下の皆さんにとっても上司に相談しやすい雰囲気もできているようです。これまで日々の業務に追われ、やり過ごしてきたちょっとした事にも関心を向け、上司と部下で一緒に解決策を考える機会となっていると思います。2つ目は、月1回の事業所会議です。日々上がってくる日報を基にして抽出した課題などにみんなで向き合う場になり、一体感が生まれています。3つ目は「私が考える企業理念・行動指針」というレポートを、毎週イントラにアップしています。これはグループの管理職が当番制で作成します。企業理念・行動指針をどのように捉え、普段の仕事に活かしているのかを発表する場です。社員にとっては、自分の部署だけでなく、他の部署の管理職の考え方を知る良い機会になっています。
健全に事業を拡大し、安定した経営を実践していくには、多くの社員がベクトルを合わせ、ひとりひとりが企業理念・行動指針の具現化に向けて考え、行動することが一番だと思います。少しずつですが、良い方向に向かっているとは思います。
編集部:挑戦する風土が浸透し始めている感じですか?
木村社長:そうですね、グループ企業理念にも「挑戦」の言葉はありますので。そうした風土を醸成するためにも、私としてはこれまで以上に「人を育てる・活かす」という意識を根付かせていきたいと考えています。現在の部長・課長クラスの社員には若手社員を育て・活かすために、多くの挑戦するテーマ・機会と権限を与え、若手社員の考えているアイディアを具現化する支援をして欲しいと考えています。要するに、部下に結果を出してもらい「部下を出世させる」ことが部長・課長クラスの仕事なんですよ・・・。私は同じ失敗を何度も繰り返すことはいけませんが、違う失敗は100回していいと思っています。現場での失敗した経験の中から「気づき」を得て、次の機会に成功するよう繋げていってほしい。若手社員にこそ経験を積ませてあげられるような風土をもっと創っていかなければならないと感じています。
編集部:求める人材も変わりますよね?
木村社長:これからの時代、過去の経験則で物事を判断すると、お得意先様、お取引先様、そして消費者の皆様に必要な商品、製品、サービスをお届けすることはできません。置かれた環境で自発的に考え、行動でき、常に何か新しいことを模索する人が好ましいですね。グループ企業理念・行動指針に準じることであれば、どんな提案でも、どんな新しい案件でもスピード感をもって実現していかなければなりません。また、当社グループは熊本だけでなく九州全体と中国地方に事業を展開しているので、熊本はもちろん、九州・西日本で働きたい人であれば大歓迎です。新卒・中途にこだわらず、通年で採用を行っています。
「食への挑戦」をテーマに木村の新ブランドを展開
編集部:新たにブランド戦略も展開されていますね。
木村社長:「食への挑戦」をテーマに様々な取り組みを行っています。「九州うまかもん商店」というECサイトを立ち上げ、販売とともに「木村ブランド」の発信を行っています。創業1954年以来、伝統の技術と製法、徹底した素材選びにこだわり、美味しさを追及してきたメーカーとしての強み・姿勢を前面に出しました。
商品開発には力を入れていて、最高峰の素材・製法にこだわった「木村プレミアム」シリーズや地域で親しまれるご当地メーカー(ダイショーの『味・塩こしょう』やらくのうマザーズの『カフェ・オ・レ』)を使用したコラボ商品などを展開する「KIMUラボ」。時代にフィットしたお菓子セレクション「K’s MARKET」など、新たなチャレンジを行っています。
編集部:事業部門ごとにテーマがありますか?
木村社長:『製造事業』では、変わらない美味しさ(人財育成・標準化)、製品ブランドの強化(代表的な商品の創造)、新分野へのチャレンジ(製造委託先の発掘・低温度帯製品の開発)などに挑戦していきます。また、『卸売事業』では、顧客満足度向上(営業機能の強化)、ニーズの最適化(仕入先・商品の選定や物流の最適化)などに取り組み、「創り手」と「買い手」の懸け橋として期待を超える商品やサービスを提供したいと考えています。
編集部:『物流事業』はどうですか?
木村社長:安全や品質、営業力を強化していきたいと考えています。足元で言うと燃料費が高くなって、賃金にも上昇圧力がかかっています。2024年問題といわれている、ドライバーさんの総労働時間の規制が本格化する、というものに準備はしてきました。2024年9月には福岡に物流拠点を新たに開設する予定で動いています。熊本の企業から九州の企業へ一歩一歩前進しています。