熊本の未来をつくる経営者
「サクラマチクマモト」を拠点に熊本の活性化に挑む九州産業交通ホールディングス株式会社の森副会長
森 敬輔(もり けいすけ):九州産業交通ホールディングス株式会社 取締役副会長。長崎県佐世保市出身。1979年リンガーハットに入社し、執行役員経営企画部長を経て、2004年九州産業交通株式会社(現 九州産業交通ホールディングス株式会社)に入社。顧問・経理部長から、2007年熊本フェリー株式会社社長、2008年九州産業交通ホールディングス常務取締役、2010年九州産交バス株式会社社長を経て、2021年九州産業交通ホールディングス株式会社社長、2023年10月1日取締役副会長に就任。
見えてきた回復の兆し
編集部:九州産交さんといえば「産交バス」のイメージが強いのですが、他にもさまざまな事業を展開していらっしゃるとか。改めて全体の事業内容を教えていただけますか?
森敬輔副会長(以下、森副会長):創業は1942年ですので、2022年には創業80周年を迎えます。「熊本の産業振興会社になる」という企業理念のもと、交通事業、観光事業、飲食・物販事業、不動産事業など12の事業を熊本県内で展開しています。2016年からは当社の次世代の事業基盤となる桜町再開発事業に着手し、旧熊本交通センターの約3万㎡の敷地に、バスターミナル、商業施設、ホテル、オフィス、住宅、映画館などを集積した複合施設「サクラマチクマモト」を完成しました。また2021年には全国にさきがけて、熊本県内にある5つのバス事業者と「共同経営」をスタートし、バス運行の効率化と利用促進を図っています。
編集部:近年の状況はいかがでしょうか?
森副会長:そうですね。グループの売上の95%は人の移動で成り立っていますので、コロナ禍の影響は大きかったですね。最初の1年は、自動車整備事業だけは唯一影響がなかったのですが、あとの事業はすべて減収減益という結果でした。ただ2021年の10月頃から新型コロナウイルスが少し下火になり、10月から12月にかけては予想以上に業績が上向きました。これで年間の黒字化も見えてきたと思っていたのですが、1月から再び、まん延防止等重点措置が全国に発令され、業績が下がる…という繰り返し。現在は、コロナ禍でも少しずつ人の動きが増えてきていますので、回復の兆しが見えてきたのかなと思っています。
例えば、今年の3月から5月にかけては、7月より当社が指定管理者をさせていただいている花畑公園で、「くまもと花とみどりの博覧会」が開催され、ゴールデンウイークは久しぶりに大勢の人出で賑わいました。
また熊本は、TSMCの進出という国家的なプロジェクトも控えており、これも業績回復の起爆剤の1つになりえると考えています。1つ心配されることが、交通渋滞の問題ですが、その緩和に協力できないかと考えているところです。TSMCの工場が約2年間にわたって作られるわけですが、その間の職人さんの送迎であったり、また本格的な稼働が始まったら、従業員さんたちの送迎であったり。専用のシャトルバスを定期便化するなど、マイカー通勤の削減に貢献する方策を検討しています。
編集部:2023年には阿蘇くまもと空港新旅客ターミナルビルも開業しますが、このプロジェクトにも関わっていらっしゃるのですか?
森副会長:はい、運営する「熊本国際空港株式会社」には、当社も株主として支援させていただいています。空港は文字通り、熊本の空の玄関口。新型コロナウイルスの終息次第ですが、インバウンドの復活も期待されますし、国内旅行においても「GO TO トラベル」の再開が期待されるところです。旅行事業を抱える当社としても、新空港には大いに期待をよせています。
あとはなんといっても、我々の今後の事業の中心である「サクラマチクマモト」ですね。その集客も少しずつ回復を見せていますので、現在、てこ入れに取り組んでいるところです。
多彩なイベントの他、野菜バス・魚バスを企画
編集部:2019年の「サクラマチクマモト」の開業は、震災後に沈みがちだった熊本の人々にとって、久しぶりにわくわくするようなニュースだったと思います。
森副会長:1年目は、約1300万人もの皆さんにご来館いただきました。月間に換算すると100万人強。しかしコロナ禍に見舞われた開業2年目、3年目は、月間80万人ほどで推移しています。まずはあの開業当時の賑わいを取り戻し、コロナに左右されず、月間100万人が訪れる場所にしていきたいと考えています。
編集部:具体的な戦略はお考えですか?
森副会長:サクラマチガーデンという空間があるんです。「熊本城と庭続き」という再開発コンセプトを表現した目玉の空間なのですが、これまでなかなか有効に活用できていませんでした。そこで社内でプロジェクトを組み、ここを使ってさまざまなイベントを始めています。例えば、星空観賞会に関しては毎月開催していますし、「ロボホン」「ポケモン」「文豪ストレイドッグス」「呪術廻戦」といった人気キャラクター、人気コンテンツとコラボしたイベントも開催しています。そういった楽しいイベントを企画し、楽しいサクラマチにして欲しいと、プロジェクトに関わる皆さんにお願いをしているところです。熊本県内でも人気のある商業施設、JRさんのアミュプラザではできないもの、鶴屋さんではやってないもの。そこに九州産交としてのアセットを使ったものを、みんなに考えてくださいと呼びかけています。
編集部:九州産交のアセットを活用するとは?
森副会長:今、グループの総力をあげて始めようとしているのは、「野菜バス」「魚バス」です。当社のバスを使って、地域の農産物や水産物をサクラマチに集めようという試みです。それも、地域で困ってるところをお手伝いできないかと考えています。例えば野菜ですと、曲がったキュウリなど市場に出せないものを我々が集めて、熊本市民や観光客の皆さんに買っていただけないかと。ここ数年はコロナ禍で、地域に対する貢献も思うようにできていませんでした。また世の中では今、SDGsも叫ばれています。そうしたことも念頭に、バスをはじめとする当社のアセットや使えるはずなのにこれまでうまく使えていなかったものを使いながら、もう一度しっかりした業績に戻したいというのが今の思いです。
若手を積極的に登用。フラットな組織へ
編集部:社長に就任されて約1年が経ちましたが、どんな組織づくりを目指してこられましたか?
森副会長:これからは若手の力をもっと引き出していきたいと考えています。それは、「サクラマチクマモト」のイベント企画もしかり、今度の80周年の記念事業もしかり。社内に委員会やプロジェクトを立ち上げるにあたっては、各部署からどんどん若手を出すよう呼びかけています。50代は絶対出るな、とかね(笑)。私自身はそれくらいの気持ちでいますよ。
当社には、バス会社としての歴史と文化が染み付いていて、いい意味では真面目で、礼儀正しいところがあるんです。ちゃんと法律を守るなど、コンプライアンスはしっかりしています。ところがその一方で、枠から外れた発想をする、チャレンジを楽しむ、といった面は弱い。組織の力はあるんですが、そこにプラスして、もっと個人の力が発揮できるような組織にしていきたい。何でもやっていいし、何でも言っていいという文化にしていきたいんですよ。もちろん目上に対する言葉遣いとか、尊敬する心は持って欲しいけれど、仕事においてはもっとフラットにやれるような雰囲気を作りたいと思っています。
編集部:具体的な取り組みもありますか?
森副会長:先程話した「野菜バス」と「魚バス」の企画に際しても、コンセプトに沿っていれば、どこから何を運んでいいし、何をしてもいいと、プロジェクトメンバーには伝えています。最初から儲からなくてもいいし、スモールスタートでいいです。うちの場合はどちらかというと、きれいに整わないとスタートできない感じなんですね。100を求めたら、100を作ってから持ってこようとする。だから時間がかかる。僕はもう、30でも40でもいいと思っているんです。成果を出していくことではじめて「よかったね」と言えるんですよね。失敗の連続でも、結果的に成功すれば誰も言わない。ですから今社員の皆さんには、大きな成果ではなくて、小さい成果を積み重ねてくださいと言っています。結果的に弊社の商品やサービスを今までの頻度以上に使っていただき、そして今までとは違うお客様が使ってくださる。小さくてもいいから、そういうことを発見していきましょうと、去年から社内報などを通じて全社員に発信しています。
もう1つのテーマは、標準化、マニュアル化です。今は各社のいろんなところにマニュアルがある状態です。1つ1つはすごく立派。でもこれが全社で統一されているかというと、統一できていません。標準化される部分と個性が働く部分が噛み合う組織になることが大事です。その結果、個人も伸びることができるし、専門スキルも発揮できるようになると思うので、業務の標準化はもっと進めるべきだろうと考えています。標準化されたものの上にプラスアルファをどう作れるか。これが企業としての強み作りに繋がっていくと思っています。
欲しいのはロジカルに仕事ができる人材。中途採用にも力を入れていく
編集部:採用や教育についてはどのようにお考えですか?
森副会長:当社は以前、産業再生機構が入っていた時期があり、その間は採用を控えていましたから、30代、40代の社員が少ないんです。ですから今後は、中途採用にも力を入れていきたいと思っています。Uターン、Iターンなどで、一定のスキルを持った方たちが入って来てくだされば、会社は一気に変わってくるという期待もありますね。
編集部:どんな人材を求めていますか?
森副会長:当社はまだまだ昔ながらの、直感で動く会社です。ロジカルに数字で動ける会社ではないんですね。しかし今後は首都圏の大企業のように、数字をもとにした方針展開、目標展開ができる組織にしていかなければなりません。数字で考え、数字で話し、数字で仕事ができる。そんなタイプの人材が非常に欲しいところです。
ただ、新卒に関しては、それほど難しくは考えていません。会社が育てていけばいいという想いです。明るい、暗いも、会社の雰囲気で変わるわけでしょうし、「上司にものを言っていいよ」と言っても、言える人もいれば、言えない人もいる。やっぱりそこは千差万別。全ては会社が変えていけると考えています。私だって若い時は、「どうやって休もうか」とかね(笑)、そんなことしか考えていませんでしたから。年をとって、部下ができるようになって初めて、「人としてどうあらねばならないのか」と考えるようになりました。ですから千差万別な、さまざまな個性を持った人材たちがそれぞれの個性を伸ばし、発揮できるような組織になることが理想です。
編集部:最後に、九州産交をどんな会社にしていきたいですか?
森副会長:これからもずっと、熊本の地方創生に貢献できる企業であること。それが当社の使命です。そのためには、それぞれの社員が成長できる教育体系を作りながら、なおかつ社員の皆さんが幸せと思えるような報酬や働き方を提供できる企業になっていきたい。これが目標です。
あとはとにかく、先ほども話しましたが、もっと気楽に声を掛け合えるような会社にしていきたいですね。肩に力が入っていると、新しい発想も出てこないと思います。やっぱり基本的にはフラットな組織で、「役職で仕事をしないこと」が大事ではないでしょうか。役職で仕事しないということは、下からものが言える組織だということです。上とか下とか関係なく、誰もが弊社のバスに乗るし、何かを買うわけですから。社員としての経験や培ってきたスキルは違うでしょうが、一消費者としては変わらないのではないかと。そういう雰囲気の中から自由なアイデアが出てくるようになると、この会社はもっと変わっていくと思いますね。
※写真撮影時のみマスクを外しています。
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