熊本の未来をつくる経営者
既存の顧客基盤を活かし九州にDXを浸透させる 九州デジタルソリューションズの德永社長
德永賢治(とくなが けんじ):九州デジタルソリューションズ株式会社・代表取締役社長。済々黌高校―熊本大学法学部卒。84年肥後銀行入行、2012年田迎支店長、14年監査部長、15年執行役員総合企画部長、同年取締役執行役員総合企画部長、17年取締役執行役員事務統括部長、18年取締役常務執行役員事務統括部長、20年取締役常務執行役員、17年から九州デジタルソリューションズ非常勤取締役を兼務。22年4月から現職へ。
九州デジタルソリューションズとして新しくスタート
ココクマ編集部(以下、編集部):事業内容を教えてください
德永賢治社長(以下、德永社長):2022年4月に「九州デジタルソリューションズ株式会社」に社名変更、九州フィナンシャルグループの子会社として新たなスタートを切りました。これまでは肥後銀行のグループ会社「株式会社肥銀コンピュータサービス」として、熊本県を中心にIT関連事業を展開してきましたが、これからは事業領域を九州へ拡大し、DXを推進していくことで、持続可能な地域社会の実現に貢献していきたいと考えています。
編集部:事業内容に変化はありますか?
德永社長:これまで通り三本柱で事業を進めていく予定です。1つ目は、銀行からの受託業務(銀行システム開発・運用)。2つ目は、収納代行(お客様の回収代金を金融機関の口座振替により集金するシステム。例えば、家賃や授業料の口座引き落とし)。3つ目は、ITソリューションサービス(システム開発の導入・パッケージシステムの販売)です。銀行からの受託業務や収納代行は、安定的に収益が上がる事業です。これを経営のベースとし、今後はITソリューション事業に注力していきたいと考えています。現在、民間企業に限らず、自治体向けのDX推進にも取り組んでいます。直近では学校徴収金の徴収・管理を効率的に行う「学校徴収金管理クラウドシステム」が熊本県に採択されました。また、22年10月には、鹿児島に新たな事業所を開設し、23年4月には営業部門を立ち上げました。鹿児島銀行などのグループ企業と連携し、鹿児島におけるDX推進の支援事業も今後はさらに力を入れて展開していきたいと考えています。
編集部:ITソリューション事業は競合も多いのでは?
德永社長:これまでは銀行の関連会社でしたから、規制範囲の中で事業運営をしていたわけですが、規制緩和が進むとともにITに対する機運も高まってきました。そこで当社は、銀行関連のお客さまのITニーズにお応えする課題解決ビジネスに大きく舵を切ることになりました。
もともと肥後銀行はIT導入に意欲的で、独自のシステム構築や業務のIT活用をかなり以前から実践してきました。テクノロジーの進化とともに、IT活用こそが人材不足を補い、生産性の向上につながると信じ、積極的に導入してきた歴史があります。ですから、地方銀行系列のシステム会社にしては、比較的以前から一般企業向けのソリューションの提供を始めていました。
また、何と言っても、銀行が培ってきた顧客との信頼関係がありますので、地元との強い結び付きの上で、相談なり、コンサルティングを実施できる強みがあると考えています。
編集部:計画は順調ですか?
德永社長:頑張っていますよ(笑)。徹底的に顧客と話し合い、既存業務の課題点をあぶり出して、それをデジタルで解決するという提案を始めています。しかし、地方ではITとかシステムだとか、見えないものや形のないものへの投資には抵抗感があるように思います。ですから、単発で大きなシステム投資よりも、まずはサービスを使ってもらって、サブスクリプションのような形で少しずつ効果を体感いただくことが不可欠だと考えています。DXに代表されるデジタル技術の恩恵を、私たちが体験し、そのメリットや活用方法を啓蒙していくことも私たちの使命だと感じています。
地元の課題解決を目指すことがさらなる業務の発展につながる
編集部:肥後銀行との連携は継続されていくということですね
德永社長:もちろんです。企業開拓という面では、肥後銀行のお取引先を中心とした約12,000社の地元企業が私たちのアプローチ先となります。行員が日々経営者とお会いし、様々な経営相談を頂く中には、ITを導入することで売上拡大や業務の効率化に貢献できる事案がたくさんあるわけです。そういったお困りごとを素早くキャッチし、当社を通じて最適なソリューションを提案できることが最大の強みです。今後はITのソリューション提案を熊本から九州全域へ広げていけるよう、鹿児島銀行とも同じ様な関係を構築していきたいと考えています。
また、銀行業務を中心にリース・クレジットなどの金融サービス以外にも、社員教育・研修や人材紹介、BPOサービスなどを手掛ける事業会社があります。例えば、人事制度の構築をサポートする場面では、コンサルティングは肥銀ビジネス教育、システム構築は当社、ハードの購入は肥銀リース…など、グループ会社と連携し専門性を活かした総合的なソリューションを提供できるところも強みだと考えています。
編集部:これまで通り地域密着ですね
德永社長:間違いなく、お客様の近くにいることは強みですよね。逆に地元密着で逃げない姿勢を示すことで顧客の信頼を得ることができる。そして、信頼を勝ち得れば、顧客の懐に飛び込み、一緒に課題を見つけ、解決策を練ることができます。DXというとデジタル・ファーストな話題が出るが、デジタルはあくまで手段であり、その根本はユーザー・ファーストと言える。そして、デジタル技術の切り売りでは最終的にお客さまのためにならない。
地方でのビジネスは、地域全体を俯瞰する必要もありますね。
また、地元との信頼を背景に課題解決を目指していますが、私たちも利益を上げなければなりません。今は地域の顧客の課題解決を目指していますが、その解決策が定着し効果がでたものであれば、それを全国に横展開したいと考えています。
編集部:具体的な事例があれば教えてください
德永社長:「船員向け勤怠管理サービス」があります。これは船員の勤怠管理などをサポートするクラウドサービスです。船員の労働時間や休暇の管理、ドックへの入港記録、船の整備記録、作業ごとの労働時間などをペーパーレスで対応するもので、もともと7年前に天草市の海運業者のために作成したシステムの一部でした。2022年4月からの船員法改正で国土交通省が全国の港における先進的な取り組みの一例として取り上げたところ、何箇所から同社に問い合わせがありました。これはイケると思い、顧客の要望を聞き、改正船員法に対応できるようバージョンアップして、既に20社ほどで利用が始まっている。今は、全国に2000以上あるという内航海運業者に向けて活用を提案しているところです。
積極的な人材採用で攻めの経営へ
編集部:オフィスも今風ですね
德永社長:リモートワークが基本で、出社したらフリーアドレスです。本社ビル内には、仕事に集中できるブースが配置されており、環境リッチな業務スペースも用意されています。業務はペーパーレスが基本で、印鑑もほぼ不要、ワークフローでの決裁関連や勤怠管理などは全てデジタル処理しています。
編集部:DX化を進めているんですね
德永社長:社員同士が顔を合わせる機会が減ったからこそ、コミュニケーションを重要視しています。ここ数年で組織が急拡大していますので、直接対面で話したことがないような人もいます。毎週1回の朝礼では、経営陣や役員からのメッセージを伝えるようにしていますし、私自身は社内ブログを始め、私の考え方や経験などを発信しています。業務を進めるにはTeamsやchatで十分ですが、社員同士の距離感は縮まりません。私自身、一緒に働いてる人の人となりとかを知らずに仕事をするのは苦手なのです。だから最近始めたのは、出社している人は、デスクに大きな名刺を置くようにしています。名前だけじゃなく、出身地や趣味、自身のキャラクターなど、人となりが分かるように、コミュニケーション取りやすいよう工夫しながら、組織としての一体感を創っていきたいと考えています。
編集部:会社の雰囲気も変わりますよね?
德永社長:会社としては35年の歴史がありますが、ここ数年で全く違う会社になったと思います。会社の雰囲気やカルチャーをガラッと変えていくというか、組織の方向性を定め、社員のモチベーションを高めていくのが私の仕事だと思っています。成長機会をできるだけ与えてあげたい、なるべくやりことをやらせてあげられるようにしていきたいと思っています。
守りから攻めの経営へ変化していくわけですから、社員へ期待することも変わっていくと思います。今年は、人事評価制度や賃金体系も変更、特別表彰制度を設け、貢献度の高かった2名を表彰しました。成果を出せば評価される。チャレンジすれば認めてもらえる。そんなカルチャーが醸成できたら嬉しいですね。
編集部:求める人物像も変わりますよね?
德永社長:指示されたことをこなしていくだけでなく、自分で新しいことを考えて、実際に自分でやってみる、そんな人材が欲しいですね。これまでは、決まったことを如何に正確・迅速にやるかみたいなことが求まられましたし、もちろんそういう仕事も中にはありますけれども、それだけでは将来は描けません。自分で発想できるような、ちょっと変わったことを言うくらいの人材も面白いかなって思います。
まだまだ、技術力が長けた会社ではないと思っていますので、これから採用にも力を入れ、技術を磨いていかなければと考えています。
※写真撮影時のみマスクを外しています。