熊本の未来をつくる経営者
創業73年の新生企業。総合力で九州の農業をサポートする。 ヒノマル株式会社の安武社長
安武広信(やすたけひろのぶ):ヒノマル株式会社・代表取締役社長。熊本市出身。真和高校、熊本商科大学(現熊本学園大学)を卒業後、1985年に同社に入社。アグリ事業の営業畑を歩き、熊本支店アグリ営業部長、福岡本社アグリ事業部第二企画部長、鹿児島支店長、熊本支店長、福岡本社アグリ事業部長、取締役を経て、2020年6月より現職。
親会社から分離独立し、アグリ事業存続と経営の迅速化を図る
ココクマ編集部(以下、編集部):2020年8月、新たにヒノマル株式会社が誕生したそうですね。
安武広信社長(以下、安武社長):実は当社は歴史が長く、戦後間もない1947年に始めた肥料販売会社が前身です。その後、肥料販売だけでなく農業関連全般を取り扱うアグリ事業、そしてインフラ事業、食品容器の成型品事業と事業範囲を拡大してきました。2000年には株式移転により積水化学グループに加入し、20年間グループの一員としてやってきましたが、昨年積水化学グループの事業方針が変わったことをきっかけに、アグリ事業部門を独立させることとなり、2020年8月に新生ヒノマル株式会社が誕生したのです。自然に恵まれた九州において、農業は核となる産業です。農業を支える役割のアグリ事業部門を、何としてでも残していかなければならないという思いで独立しました。73年前の創業時に思い描いていたように、改めて「九州の農業の未来を照らす会社にしたい」と原点に立ち返り役割を再認識しているところです。
また、新会社の株式はベーシック・キャピタル・マネジメント株式会社(BCM)が取得しました。BCMに決まった理由は、金田社長を含めスタッフの方々が農業へ興味を持ち、農業に対する熱い思いを持っていたからです。当社の事業を理解し、九州の農業の発展を願うところと組みたいという思いがあったようです。
編集部:新会社になって変化はありますか?
安武社長:独立するうえで一番心配していた点は、これまでアグリ事業にいた社員たちが新会社についてきてくれるかということでした。20年間も大企業グループの一員だったわけですから、社員たちが独立することに不安を抱き、辞めたいという人や旧会社に残りたいという人が出てくるのではないかと心配していました。希望をとってみると、83名の社員全員が新会社へ移籍するという答えを出してくれました。これがとても嬉しかった!アグリ事業の83名と管理部門20名の社員が来てくれたおかげで、スムーズなスタートを切ることができました。
拠点も変わらず、顔ぶれも変わらずで、見た目には一切変化がないようですが、組織としては「物事の決断が早くなった」という変化を感じています。これまでは事業部で物事を決め、それを社内の取締役会に諮り、さらに親会社にお伺いを立ててと、すごく時間がかかっていました。今はスムーズに決断ができ、経営の迅速化が図れています。
編集部:社長ご自身にも変化はありましたか?
安武社長:私自身の意識は大きく変わりました。当時アグリ事業の責任者だった私に白羽の矢が立ったわけですが・・・35年前に入社した時には社長になるなんて考えてもいませんでした(笑)。103人の社員を抱えているということ、会社の長い歴史を受け継いだこと、非常に重責であると感じています。73年間受け継がれてきた会社経営のバトンをここで途絶えさせることはできないし、将来は社員のためにまたバトンを渡していかなければならないと身の引き締まる思いです。
各方面からの信頼を得て100年企業を目指す
編集部:御社の強みを教えてください。
安武社長:肥料、農薬、農業資材、施設工事の4本柱で事業を展開しています。この4部門をワンストップで対応できる会社は九州内でも他になく、「総合力」が当社の強みです。多方面に目を配りながら、お客様のニーズにはどんなことでも質の高い提案ができる卸売として、九州ナンバーワンを目指しています。一方で、一つずつの部門を見ると、2番手3番手の部門もあるのが現状です。総合力を磨くためには、トータルでのご提案ができる体制とともに、肥料、農薬、農業資材、施設工事の各部門におけるスペシャリストの育成に力を入れていきたいと思っています。
編集部:そのために取り組んでいることは?
安武社長:商社の立場としてお客様に対してやるべきことが3つあると考えています。1つ目に、商品の供給です。150社もある仕入れ先と信頼関係を築くことで、スムーズにしっかりと供給できる体制を整えています。2つ目は情報の提供。九州各地に拠点を持ち、且つ、多くの仕入れ先があるので、そこで得た情報をお客様に届けています。当社のお客様は種苗店や肥料店、ホームセンター、JAなどですが、その先のエンドユーザーである農家の方々にも情報を届けていくことが使命だと考えています。そして、3つ目は信用事業です。メーカーが直接販売できないところには、商社である当社を経由する。リスクではありますが、最大の役割とも言えます。
メーカーからの信頼、お客様からの信頼、農家からの信頼など、全方向からの信頼を重ねていき、その結果が売り上げやシェアつながる。名実ともに各部門のナンバーワンとなり、業績が安定して、会社の創立100周年を迎えることが当面の目標です。
編集部:農業の現状は?
安武社長:農家の高齢化・後継者不足による深刻な人手不足と、食料自給率の低さが日本の農業全体の大きな課題です。日本人だけの労働力では足りず、熊本県内だけでも3500人ほどの外国人労働者に頼っている現状です。食料自給率についても、カロリーベースで40%を切っていて、諸外国に比べるとかなり低い水準となっています。日本は島国ということもあり、外国に頼りすぎることは有事の際の食料安保の問題にも結びつきますから、もっと真剣にこれからの農業のことを考えていく必要があります。そのため、当社でも人手不足の問題を解決するために「スマート農業」を推進しています。例えば、空中から農薬や肥料をまくドローンや、ビニールハウス内の環境を自動で制御する装置など、効率化を図る商品を取り扱っています。さらに、ただ商品を売るだけでなく、ドローンを操縦するための教習やアフターメンテナンスなど、農家の方々が取り入れやすい工夫も行っています。スマート農業の普及が、若い人たちの農業への関心のきっかけにもなるのではないかと期待しています。
若手とベテランの両方の人材を生かし、更なる成長を目指す
編集部:人材にも新しい風を取り入れているとか?
安武社長:ここ10年くらいは若手社員の採用に注力してきました。若手社員が多いことは、お客様からの当社に対する印象にも良い影響を与えています。新しいアイデアや提案を持ってきてくれたりという期待感や、気軽に話せる相談相手のような親近感が生まれ、魅力を感じてもらえているようです。また当社にとっても、若手社員とスマート農業の掛け合わせで、「まだまだやれることがある!」と向上心を持てるメリットがあります。
編集部:人材育成はどのようにされていますか?
安武社長:積水化学グループ自体の研修制度が充実していたこともあり、階層別などでしっかりと研修を行っています。その結果、論理的な思考をもって「何をやるべきか」を自分たちで考えられるようになり、スキルアップにつながっていると感じています。また、個々人が考え方をしっかり身に付けていることで、社員から様々な意見が出るようになりました。若手社員からも「こういうことやりませんか?」と意見が上がってきますよ。ボトムアップ型も取り入れることで風通しのよい会社になっていますし、よりスピード感が増したと思います。
また、大企業グループにいたことで、働き方改革にもいち早く着手できました。以前は遅くまで残業することも珍しくなく、「不夜城」と言われていた時代もありました(笑)。親会社からの指導もあり、社員が自然と「短い時間でいかに効率を上げるか」という考えにシフトしていったことで、働きやすい環境が整ってきたのだと思います。研修制度や働き方など、これまでの良い制度は新会社になった後も独自で続けていくつもりです。
編集部:求める人物像を教えてください
安武社長:やはりこれまでの採用は農学部出身者が多かったのですが、これからはスマート農業などの新しい分野にも対応できるよう、情報系やIT系の人材も採用していきたいと思っています。また、今後の採用は新卒・中途の併用で進めていく予定です。新卒によるコンスタントな採用も必要な一方で、中途採用により全然違う畑から異なる感性を持った人が入ってくることで組織が活性化することも期待しています。
最近では、いわゆる年功序列制に物足りなさを感じている社員がちらほらと出てきています。新しい会社になりましたので、人事考課制度は少しずつ変えていこうと思っています。業績を上げる人や頑張る人には、給与や人事などで還元できるようなシステムをつくっていきたいですね。また一方で、60歳の定年を迎える方が活躍できる場も作っていきたいと考えています。スキルを持った人が60歳になった途端に役割をなくしてしまう体制がもったいないと以前から思っていました。若い人材の活躍の場と、キャリアを積んだ人材の活躍の場、バランスを見極めながら検討していきたいです。新会社になったことをきっかけに、これまでの良いところは残し、変えるところは変えていく、ハイブリッドでやっていきたいです。
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