熊本の未来をつくる経営者
世界初の「塩分コントロール(食事に含まれる塩分を吸着し体外へ排出する)」技術を開発したイノベーション企業。誰かの「困った」を「笑顔」にする製品づくりで躍進を続けるトイメディカル株式会社の竹下社長
竹下 英徳(たけしたひでのり):トイメディカル株式会社・代表取締役社長。熊本県天草市出身。兵庫県立大学を卒業後、外資系製薬メーカーに入社。1998年に熊本へUターン。リバテープ製薬株式会社で商品開発に従事し、2013年トイメディカル株式会社設立、代表取締役社長就任。
世界からも注目される「塩分の吸収をコントロールする」技術と商品。
ココクマ編集部(以下、編集部):新社屋の完成、おめでとうございます。
竹下英徳社長(以下、竹下社長):ありがとうございます。2023年10月に移転したこの新社屋は研究施設と食品製造工場を併設しています。これにより研究開発の質を上げながら商品開発をスピーディーに行う体制が整いました。当社の「塩分の吸収をコントロールする技術」は、国内だけでなく世界から注目されていることもあり、今後の事業の成長を見越した先行投資でもあります。
編集部:新商品もリリースされましたね。
竹下社長:24年4月に塩味調味料「零(しお)」を発売しました。「塩分は気になるけど食事の味はできるだけ変えたくない」と感じている方をターゲットとした従来の「減塩しお」とは異なるメカニズムを持った調味料です。しお・醤油・塩胡椒の3つの味を展開し、自社ECサイトのほか、熊本県内のスーパーでも販売しています。
「減塩」ということで塩味の薄い商品はありますが、塩分を摂取または塩味を感じながら、その塩分を体外に排出できる技術や商品は、国内・海外を見てもまだ存在していません。外食やファーストフード業界、スナック菓子・冷凍食品・ハム・ソーセージなどの食品メーカー。また、医療や健康に関わる業界まで、「塩分」に課題を持つ企業をターゲットに、技術・商品の提携をしていきます。健康志向・病気への予防意識が高まる中で、この調味料の可能性は無限にあると感じています。
編集部 :市場規模と今後の展開は?
竹下社長: WHOが「塩を1日5g以上摂取すると心疾患と脳卒中のリスクが上昇する」と発表しているように、「塩分の摂りすぎ」は世界規模での課題です。日本でも約4000万人の高血圧予備軍がいるほどの巨大な市場です。
国内・海外の展示会に積極的に参加していますが、かなり大きな手ごたえを感じています。既に国内の大手企業や食品メーカー、グローバルに事業展開する海外の大手企業からもお問合せを頂き、正直驚いています。技術提供・共同開発などプロジェクトが少しずつ始まっていますが、当社独自のこの技術(ブランド)の認知度を高めていかなければと考えています。
編集部: 課題もありますか?
竹下社長:「塩分の吸収をコントロールする」という機能をPRするにあたり、景品表示法、健康増進法など、効果・効能に関する表示には厳しいルールもあります。消費者に誤解を与えてはいけませんので、PRの仕方やキャッチフレーズには悩まされます。エビデンスはきちんととれていますので、正しく伝えられる表現を模索しているところです。
このような背景もふまえ、「塩分の吸収をコントロールする」技術や商品について、公正に厳しく管理していこうと第三者機関として「一般社団法人おいしく適塩推進協会」を発足しました。
この協会は、当社だけでなく「塩分を気にせず食べられる食品をつくる」ことに共感頂いたメーカー・研究者・研究機関などに加盟して頂き、研究や分析を行い、エビデンスをとっていきます。適正なものを世の中に提供するとともに、認定を受けた商品には「協会認定マーク」を入れ、「この協会が認定した商品なら安心」という信頼の証にしたいと考えているところです。
「困った」を「笑顔に」する。商品に込められた想い。
編集部:商品開発には思い入れがありますよね。
竹下社長:事業は大きく2つあります。オリジナル医療商品の開発を行う『医療機器事業』と「塩分の吸収をコントロールする」技術を使った健康食品の開発を行う『健康食品事業』です。
当社の製品開発は、すべて誰かの「困った」から始まります。これまで世の中になかった製品を生み出すことで、使う人のQOL(生活の質)を向上させることが当社の使命です。
設立時から手がけている「はがす際に痛くないテープ」もそうです。透析患者様からの「テープをはがすのが痛くてつらい」という声から生まれました。「塩分の吸収をコントロールする」技術もそうです。次期製品のモニタリングを行う際に聞いた「昔のように熊本ラーメンが食べたい」という透析患者様からの声がきっかけです。「塩分の吸収をコントロールする健康食品」がつくれないかと、熊本大学との共同研究をスタートさせました。塩分吸着機能を持つ海藻に着目し、海藻から抽出した塩分吸着ファイバー(アルギン酸類)により塩分を体外に排出する技術を確立したわけです。
現在は原材料に外国産を使用していますが、ゆくゆくは天草産を使用していきたいと考えています。美しい海と島に囲まれた天草ですが、高齢化・人口減少による地域経済の衰退、温暖化による水産資源の減少などで困っていると聞いています。原材料の確保のために、海藻の養殖にも力を入れられれば、天草の課題解決につながります。「困った」を解決し、地域の活性化や発展に貢献し、「笑顔」を増やせたらと構想は拡がるばかりです。
「日本の食品の中に、当社の商品が当たり前にある世の中へ」
スピーディーに、ダイナミックに挑戦していく。
編集部:今後の展開や挑戦したいことを教えてください。
竹下社長:当社は少数精鋭のベンチャー企業。研究開発・商品展開など、自社だけで行っていたのでは限りがあります。そこで、よりスピーディーに、ダイナミックに推し進めていくため、創業時より大手企業との資本提携、行政や専門機関による補助金の活用・支援プロジェクトに積極的にチャレンジしてきました。
2018年7月のロート製薬株式会社・株式会社リバネスとの資本提携。21年1月にはヤマエ久野株式会社とも資本提携しました。当社の技術力と、ヤマエ久野の顧客基盤・販売網を組み合わせることにより、食品関連事業者に対し、新たな付加価値を提供できると判断したためです。
ここ数年では22年3月にスタートアップ企業の育成支援プログラム「J-Startup KYUSHU」に選定、23年6月には令和5年度 成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)に採択、7月には令和5年度熊本県地域未来投資促進事業補助金採択されました。
24年2月には零(しお)プロジェクトとしてクラウドファンディングも立ち上げました。
9月には熊本県の「24年度UXプロジェクト実証実験サポート事業」の実施事業者に採択され、ソフトバンク株式会社と株式会社ユーリアとの3社連携により「熊本県における高齢出産女性の栄養状態のモニタリングと吸収されない塩が及ぼすQOLの改善についての取り組み」の実証実験が12月から開始します。
これらの取り組みは、当社の技術・商品の認知度・信頼度を上げ、ブランドの後押しにもつながっていくと確信しています。
「日本の食品の中に、当社の商品が当たり前にある世の中へ」これを実現していきたいのです。今後、日本そして世界に当社の技術や商品を展開していくこともふまえ、上場も視野に入れています。
編集部:そんな成長を支えていくために、求められる人材とは?
竹下社長:「本当に困っている人」を「笑顔に」する製品を創造していく。
「日本の食品の中に、当社の商品が当たり前にある世の中へ」。
そんな私の想いやビジョンが浸透し、社員一人ひとりがこの会社の幹になっていく会社にしていきたいと思っています。
事業をスピーディーに推進していくためには、スキル・能力の高い人材も必要ですが、なにより想いや理念に共感し、共に挑戦し、成長していける、そんな人こそ採用したいですね。
ここ数年は毎年新卒も採用しています。現在、社員は16名、そのうち新卒が4名、少ない人数の中で既存社員たちには通常の業務に加え、新人に教えるという負担もあると思いますが、コミュニケーションが活発になり、以前より会社としてまとまってきた感じがあり、うれしく思っています。「挑戦したい!」そんな気概のある方に、ぜひ来て頂きたいですね。