熊本の未来をつくる経営者
顧客第一主義を貫き、グループ売上500億円に導いた、くまさんグループの白瀬代表
白瀬 嗣久(しらせ つぐひさ):熊本酸素株式会社 代表取締役社長。熊本市出身。熊本県立熊本高等学校、日本大学商学部を卒業後、1985年4月熊本酸素株式会社に入社、86年総務部長に就任。96年常務取締役、2003年専務取締役、06年代表権のある副社長に就任。09年株式会社くまさんメディクス代表取締役社長、20年熊本酸素株式会社代表取締役社長に就任、現在に至る。
【くまさんグループ構成企業】
熊本酸素株式会社/熊本医療ガス株式会社/くまさんガス産業株式会社/株式会社くまさんメディクス/株式会社エムアイティ/美笛軻蘇電子科技有限公司(上海・台湾)/株式会社くまさん沖縄
高圧ガスから半導体まで―成長を続ける「くまさんグループ」
ココクマ編集部(以下、編集部):まずは熊本酸素の事業内容から教えてください。
白瀬代表取締役社長(以下、白瀬社長):熊本酸素株式会社は、1918年に高圧ガス製造販売業者として創業。「感謝・信頼・発展」を社訓に掲げ、顧客第一主義で事業を展開してきました。産業用の各種高圧ガスの製造・販売を主力とするほか、ガス供給設備の設計・施工、工作機械や産業機器・工具類の販売など幅広く手掛けています。近年は事業領域を拡大し、空調・環境省エネ事業、産業用ロボットシステム事業、半導体関連事業など5つの事業部門を展開しています。
編集部:くまさんグループの構成会社にはどのような会社がありますか?
白瀬社長:グループ全体の売上高は約500億円、従業員数も約1,700名の規模になりました。医療用ガスを専門に扱う熊本医療ガス株式会社は、病院への酸素供給や在宅医療用酸素、医療機器販売まで担い、地域医療を支えています。一般家庭向けLPガスや住宅設備を扱うのがくまさんガス産業株式会社。プロパンガス供給に加え、ガス機器販売、リフォーム工事まで行う生活インフラ企業です。半導体製造装置の開発・製造を担うのが株式会社くまさんメディクス。今やグループの売上の中心を担う存在です。さらに、半導体関連の特殊配管や装置組立を専門とする株式会社エムアイティ。高純度配管や真空系の技術で装置メーカーを支えています。そして2024年に設立したのが、沖縄でフロンガスの再生事業を行う株式会社くまさん沖縄。環境分野への挑戦です。これまでグループ企業間のシナジーを高めることで企業価値を向上させてきました。

編集部:特に株式会社くまさんメディクスの成長が突出してますね。
白瀬社長:半導体市場の好況を背景に、ここ数年で売上規模が飛躍的に拡大しています。半導体製造装置の開発・製造・メンテナンスを担う、グループ最大規模の事業会社です。1988年に熊本酸素の半導体関連部門が独立して設立されました。以来、国内外の半導体メーカー向けに製造装置の設計から部品製作、組立・据付、納入後の保守サービスまで一貫して手掛けています。具体的には、シリコンウェハの製造工程で用いられる各種真空装置・液晶製造装置・搬送ロボットなどを製造しており、クリーンルーム内での精密な組立技術を強みとしています。装置メーカーの協力企業としての側面も持ち、受注生産による装置部品の組立やユニット製作も行います。自社開発製品もあり、近年では半導体工場向けの環境対応装置や省エネ型機器の提案にも注力しています。また装置納入後のメンテナンスサービスも提供し、装置の定期点検・改良やユーザー技術支援までトータルサポートすることで信頼を得ています。 くまさんメディクスはグループ売上の中核を担い、年間売上約300億円、1,431名(26年3月時点)の従業員がいます。現在、菊池市旭志にグループ最大規模の新工場(第30拠点目)を建設中で、2026年9月からの稼働開始を予定しています。この新工場稼働に合わせ150名規模の増員を計画しており、26年6月には100名収容の社員寮が完成予定です。これにより将来の需要増に対応できる生産体制を整え、さらなる売上拡大を目指しています。
成長の原動力は「権限移譲」と「本気の顧客第一主義」
編集部:業績好調の要因は?
白瀬社長:半導体市況の追い風は確かにありました。ただ、それだけでは売上500億円には到達しません。一番の要因は「社員の成長」です。社員が考え行動する風土の醸成や顧客の要望に迅速・丁寧に応える姿勢が業績拡大につながっているのです。
私は、2020年の社長就任時から、社員の自主性に任せる経営に舵を切りました。これまでは、どちらかというと「これはどうするんだ」「失敗したらどうするんだ」と保守的な意見が多かったのですが、これでは何も始まりません。だから「好きにやっていいよ」と方針転換したのです。権限移譲というより責任移譲です。
アイデアを出し、提案した社員が責任をもって最後までやりとげる。私も一緒に戦略は考えますし、責任も取りますが、実行に関しては任せます。「多少失敗しても大丈夫。ただし本気でやれ!」とハッパをかける。そうすると、社員の意識や行動は変わるのです。
今では、社員がどんどんアイデアを出してくるようになりました。部門制を強化し、利益責任も持たせた結果、熊本酸素株式会社の売上は160億円規模に成長しましたし、医療ガス会社もLPガス会社も売上は伸びています。沖縄に設立したフロンガス再生事業会社も設立翌年には黒字化しました。
「やっていい」ではなく、「やらざるを得ない」という責任感が芽生える。そこから幹部が育ち、部門長が育ち、今では、グループ各社で自主的に中期計画を作成し高い目標に挑戦するようになったのです。ですから、ここ数年は私が目標数字を設定することはなくなりました。唯一徹底して言い続けているのは「顧客第一主義」だけです。

編集部:顧客第一主義は30年前から掲げてこられたと伺いました。
白瀬社長:そうです。でも、言うだけでは意味がない。本気でやるかどうかなのです。お客様の満足を最優先にする。利益が出ないときはどうするのか?「それでもお客様を優先しろ」と言い続けてきました。「そんなことしたら損するじゃないか」と社内で叱責されたこともあります。でもね、お客様に尽くしていれば必ず返ってくるのです。実際に返ってきましたし…。例えば、赤字でも対応した案件が大きな受注につながる。無理な価格交渉は行わず信頼を積み重ねてきたことで長期取引に発展する。そういう顧客第一主義の精神が、現在の「くまさんグループ」をつくり上げてきたのです。顧客第一主義は長期的な視点で考えると、最も合理的な戦略なんです。お客様の喜びを追求し、それを実現できる会社にしていきたい。それが業績につながることを社員も理解している。利益は社員に還元し、社員が仕事を楽しめる環境を作る。それが私の一番の仕事ですね。
編集部:社員の成長と顧客第一主義。その両輪が未来のビジョンにもつながっていくのでしょうか。
白瀬社長:私は「20XX年に○○億円」という数値目標は立てません。高い目標を掲げると、不正や無理が出てくるから。それよりも「顧客第一主義を徹底して、自分たちで考える組織をつくる。その結果として売上は自然に伸びる」という考え方を持っています。実際、各社は自分たちで高い目標を掲げ、前倒しで達成してきました。私は褒めもしないし、責めもしない。ただ信じて任せる。面白くない仕事は人はやらない。だから私は、社員が「面白い」と思える環境をつくりたい。権限を渡し、成果を分配し、挑戦を歓迎する。その先に、1000億円企業があるのかもしれません。でもそれは目的ではありません。目的はお客様に選ばれ続ける会社であること。それを本気で続けていけば、くまさんグループはまだまだ伸びる。私はそう確信しています。
面白く働くから、会社は強くなる。人が主役の組織をつくる。
編集部:今後のビジョン、そして組織としての方向性について教えてください。
白瀬社長:半導体は2028年頃まではスーパーサイクルが続くと言われています。2030年までには、グループ規模も倍になる可能性はある。ただ、それを目標にしているわけではないんです。大事なのは「顧客第一主義を貫いた結果、どうなっているか」。これだけです。そのために、組織はさらに任せる方向に進めたい。今でも各社は実質的に幹部が経営を担っていますが、将来的には明確なポストを与え、より明確に実行権限を渡していく構想もあります。経営は能力のある人間にどんどん任せる。そうしないと会社は強くならないのです。

編集部:組織づくりにおいて、特に大切にしていることは何でしょうか。
白瀬社長:自主性ですね。右に行け、左に行けと指示されて動くだけの会社は面白くないと思うんですよね。自分で考え、責任を持ってやるからこそ、仕事は面白くなる。だからこそ権限移譲を進めてきましたし、利益が出れば分配もする。頑張ったら報われる。それが実感できる会社にしたいと考えてます。
また、幹部の選抜も慎重にやっています。一緒に仕事をしてきた中で「任せられるかどうか」を見極める。文句を言うだけでなく、責任を取れる人間かどうか。そこは厳しく見ています。女性管理職の登用や外国人採用も進めています。外国人社員はすでに1割を超えていますし、新工場ではさらに増える予定です。多様な人材が力を発揮できる会社でなければ、これから成長できないでしょう。
編集部:最後に、どんな人物と一緒に働きたいとお考えですか。
白瀬社長:「楽しんで仕事に取り組める人」「自分で考えて挑戦できる人」「お客様のために本気になれる人」ですかね。顧客第一主義は簡単ではありません。知識も実力も必要です。「与えよ、さらば与えられん」と言うけれど、与えるだけの力がなければ与えられない。だから勉強し続けなければなりません。
当社は、挑戦する人を止めない会社です。失敗してもいい。ただし本気でやれ。100年企業ですが、まだ発展途上です。これからの「くまさんグループ」をつくるのは、今いる社員と、これから入ってくる人たちです。自分の力で会社を大きくしたい。そんな野心を持った人にこそ、来てほしいですね。













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