熊本の未来をつくる経営者
誰かの「困った」を「笑顔」に変える製品づくりで急成長中のベンチャー企業 トイメディカル株式会社の竹下社長
竹下英徳(たけしたひでのり):トイメディカル株式会社・代表取締役社長。天草市出身。兵庫県立大学を卒業後、外資系製薬メーカーに入社。1998年に熊本へUターン。リバテープ製薬株式会社で商品開発に従事し、2013年トイメディカル株式会社設立、代表取締役社長就任。
「本当に困っている人」を「笑顔に」がベース
ココクマ編集部(以下、編集部)事業内容を教えて頂けますか?
竹下英徳社長(以下、竹下社長)オリジナル設計の医療用ディスポーザブル商品の開発を行う《医療機器事業》、医療用シリコーンゲルを使った医療機器・美容用品の開発・製造を行う《シリコーン事業》、健康食品の開発を行う《健康食品事業》の3本柱で事業を展開しております。自社で開発した商品を様々な企業にOEM提供するほか、自社では工場を持たず、医業に参入したい他業種のメーカーにご協力頂き、ファブレスな製品づくりをすることで枠にとらわれない開発を強みとしています。
編集部 「トイメディカル」という社名に込めた想いを教えてください。
竹下社長 私たちが掲げる「To make you smile」という企業理念の通り、子供を笑顔にするおもちゃのような製品を創り続けていきたいという想いを込めて、「トイメディカル」という社名にしました。当社の製品開発は、誰かの「困った」からスタートします。カテーテル固定用のウレタンドレッシング、チューブ固定用立体テープ、人工透析用の止血バンド、シリコーンゲルテープ、開放性湿潤療法用シリコーンドレッシング、目元のしわを取る目元用シリコーンゲルシート、排塩サプリメント「DelSalt」・・・。すべてに共通しているのは、使う人の「困った」を「笑顔」に変える商品であるということ。世の中の流行りを追いかけて製品を作るのではなく、「本当に困っている人の役に立つ」ということをベースに、これまで世の中になかった製品を生み出すことで、使う人のQOL(生活の質)を向上させることが当社の使命だと考えています。
編集部 「DelSalt」「しおナイン」はとても画期的な商品で話題になっていますね。
竹下社長 ありがとうございます。摂取することで食事に含まれる塩分を体外に排出するというサプリメントなのですが、これも透析患者である私の友人の「もう一度熊本ラーメンが食べたい」という一言から開発がスタートしました。何とか願いを叶えてあげられないだろうかと、熊本大学医学部の先生と一緒に2年かけて開発したのが、この「DelSalt」です。
元々は透析患者さんのために開発を進めていましたが、薬事法の関係でまずは高血圧や塩分制限中の方へ向けて販売することにしました。日本には約4000万人の高血圧予備軍がおり、大きい市場だということがわかりました。2016年にWHOが発表した「塩分を1日5g以内にしないと高血圧で健康寿命が短くなる」という声明が海外でも大きいインパクトを与えていますし、いいタイミングで商品化できたと感じています。今後は中国・タイ・アメリカ・台湾などでも販売できるよう準備を進めています。
「DelSalt」は自社販売用の商品でネットでのみ販売しています。これと同じ内容で全国展開している商品が「しおナイン」です。売上は好調で、全国7000店舗のドラッグストアにお取り扱い頂いています(近所のドラッグストアでも販売されていたのでちょっと感動しました(笑))。新規商品としては驚異的な数字と言われており、類似商品もありませんので市場の評価の高さも実感しています。おかげさまで「DelSalt」は令和元年度の熊本県工業大賞特別賞(健康福祉賞)を受賞することができました。
世の中に無いものを生み出す 世界オンリーワンの企業へ
編集部 新たにチャレンジしていることはありますか?
竹下社長 「吸収されない塩」の研究開発を進めています。「DelSalt」「しおナイン」といったサプリメントの技術を応用して、塩とミックスすることで塩味を保ったまま体に吸収されないようにできるのです。ポテトチップスやカップラーメンに使用することで塩分を控えている方でも食べることができるため、大手食品メーカーからも興味を持っていただいています。日本では保険制度が充実しているため、病気の予防への意識が低いのですが、欧米ではセルフプリベンション(自己予防)がトレンドになってきています。サプリメントでは病気の予防まではできませんが、「吸収されない塩」は病気の予防になります。塩は世界中どこでも使用されていますし、海外へのセールスにもチャレンジしていきます。今年中には商品化して販売したいと考えています。また既存の事業でも、医療機器事業では帝王切開の傷跡を綺麗に治すことができる医療用のテープをタイに出荷するなど、海外へ販路を開拓しています。
編集部 大手製薬メーカーと資本提携されましたね。
竹下社長 2018年7月にロート製薬株式会社・株式会社リバネスと資本提携を行いました。リバネスが実施するシードアクセラレーションプログラム「熊本テックプランター」で「あつまるホールディングス賞」を、その後の全国大会で「吉野家賞」を受賞したことがきっかけで、大手企業数社から資本提携についてお声がけを頂き、最終的にロート製薬さんに決めさせて頂きました。これにより製品開発力を強化することができますし、チャレンジの幅が広がります。ひとりで悶々と考えていたころに比べると、解決に向けた選択肢が多く、スピードも異常に早くなったと感じています。また昨年は「熊本テックプランター」のスポンサー企業になりました。テックプランターの出身でスポンサー企業になった全国的にも初めての事例で、成功モデルをつくることができたと自負しています。
編集部 今後のビジョンを教えて頂けますか?
竹下社長 売り上げは今期目標としていた1億円を超えることができました。あと3年で年間売上10億円を達成したいと考えています。金銭的余裕ができると次の製品開発に回すことができますので、そのサイクルを整えたいですね。
熊本からIPOに挑戦する風潮をつくる!
編集部 スタートアップW杯で東京予選への進出おめでとうございます。
竹下社長 ありがとうございます。約50社が応募した九州ロードショー(九州予選)でトップ4社に選定され、2019年11月に開催された東京予選(日本予選)へ進出することができました。残念ながら日本代表にはなれませんでしたが、当社の商品が世界にも通用すると手ごたえを感じることができました。スタートアップW杯での実績から、資本提携のお話も出てきています。今後も当社のビジネスモデルをアピールする場には積極的に参加し、市場をつくっていきたいと思います。
編集部 勤務環境はどのような感じですか?
竹下社長 ベンチャー企業と聞くと夢に向かって寝食を忘れ・・・という雰囲気を想像されるかもしれませんが当社は違います。スタッフは開発部門2名、生産部門4名、事務2名、営業が1名と私の計10名体制です。残業はほとんどありませんし、もちろん用事があれば定時ぴったりに帰るのもOKです。有休も自由に取れますし、仕事とプライベートとのバランスを大切にして頂いています。
今後はさらに会社の規模も大きくなりますので、女性が働きやすい環境づくりに注力して、子供さんのいる女性も活躍できる職場にしていきたいと考えています。時短勤務やテレワークも含め、柔軟に個人の事情に合わせた働き方を整備できればと考えています。
編集部 求める人材像を教えてください。
竹下社長 我々は世の中に無いものを商品化していきますので、課題解決力が1番に求められます。誰かの「困った」をどう解決していくか論理的な思考ができ、「こんなものがあったらいいな」という想いを実現できる方を探しています。周りとのコミュニケーションを取りながら、前向きに仕事に取り組んでくれる方がいいですね。
開発部門となると、ある程度理学・化学・生物・薬学の知識がある方が望ましいですが、営業でしたら文系でも構いません。当社では営業といっても新規開拓というよりは、私が開拓をしたお客様を受け渡し、社内外でコミュニケーションを取りながら事業を進行させることが基本的な業務になります。今後は特に海外に向けての営業を強化していきたいため、外国語ができる方は大歓迎です。また幹部のポジションも強化していきたいと考えています。私が方針を示しますので、事業全般の管理をしながら社内でオペレーションを回していけるような方に仲間になってほしいと思います。
編集部 熊本は起業しやすい環境でしょうか?
竹下社長 熊本県(または熊本市)は創業に対してのサポートや補助金が思っていた以上に手厚く、本当に助かりました。また大学も共同研究に積極的で産学官で連携して商品開発に取り組めたことが有難かったです。ただ、熊本には上場企業7社しかなく、寂しいよねとベンチャー経営者の仲間たちとよく話しています。今後は熊本からIPOに挑戦するベンチャー企業が続々と生まれる土壌を、私たち若手経営者で作って行きたいと思っています。もちろん私も目指して行きますよ。
編集部 熊本に対する想いを教えて頂けますか?
竹下社長 私は東京・関西・鹿児島といろんな街に住んできましたが、熊本は本当に住みやすいところだと思います。全国のお客様をご招待するのですが、熊本を好きになって下さるお客様が本当に多いんですよ。食事も美味しいですし、「また来たい」と言って下さる方がたくさんいらっしゃいます。熊本は潜在的なコンテンツとしてとても良いものを持っていますし、もっとこのポテンシャルを活かして熊本を盛り上げて行きたいですね。