特集記事
【特集/熊本×転職】~熊本で思い描く暮らしを実現させた人たち~
きっかけは家族。仕事との両立を探って
ココクマ編集部(以下、編集部) 熊本への転職のきっかけを教えてください。
菅野幸介さん(以下、菅野さん) 元々関西の出身で、新卒で熊本の会社に就職、その後ご縁あって12年間、経営コンサルタントとして中国で働いていました。ただ、子供も中学生になろうかとしているときに、どこで子育てをするべきか考えるようになりました。中国は水も空気もそんなに綺麗ではなく、治安も悪かったですし…。奥さんも慣れない土地で無理をしていました。それで奥さんに、最終的にどこで暮らしたいか聞いたら、やっぱり地元の熊本で暮らしたいと言ったんですね。そこから熊本で暮らすことを具体的に考え始めました。
長崎望さん(以下、長崎さん) 僕もきっかけはやっぱり家族ですね。当時は東京の仕事が面白くて仕事に没頭していたのですが、2人目の子供が生まれた時から家庭の状況が変わってきたんです。奥さんは「仕事に専念していいよ」と言ってくれていたけど、ある日家に帰ると、リビングテーブルの上はごはんを食べたままの状態、奥さんと子供はお風呂にも入らず寝ていました。それを見て「この状況は長く続けられないな…」と。仕事を全力でやったら、家族が犠牲になると感じました。
それから日々悩みながらも仕事を選んでいましたが、あるとき携わっていたプロジェクトがひと段落する目途が見えて、「次に何しようか?」と考えた時に東京じゃなくてもいいなと思ったんです。ちょうど奥さんの実家が熊本で僕も気に入っていたので、熊本での転職を考えるようになりました。
菅野さん 家族の存在は大きいよね。僕は言った通り、中国にいた時から空気とか環境がどれだけ日々を蝕むかという気持ちがあったので、そこはすごく気にしていた。上海だと飲み水はもちろん、お風呂の水も浄水器じゃないと入れないから。奥さんの実家の水がすごく綺麗だったのも、熊本を選んだ大きな理由だったかも…。空気とか水とか、お金にはならないけど生活していく上では結構大事なんじゃないかな。
長崎さん 確かに、水とか自然とかは大切ですね。お金には代えがたいものが熊本にはあると思う。
編集部 長崎さんの出身は大阪ですよね。大阪に帰るという選択肢はなかったんですか?
長崎さん 僕は小さい頃、夏休みに山へ行ってカブトムシを取りに行ったりしたかったんですけど、大阪ではできなかった。僕が小さい頃、川遊びとか虫取りとかしたかったから、子供にもそういうことをさせてあげたいと思ったんです。いまは子供と一緒にカブトムシを取りに行けるのが、本当に楽しい。
大阪にも良さはありますけど、そこは好き嫌いかもしれません。僕にとっては、熊本での生活の方が新しい気づきとか楽しみがあるんですよね。
菅野さん 確かに好き嫌いはあるよね。僕の場合は上海に住んだ経験から、日本で言う大都市という所が世界で言う程の大都市ではないというのがわかってしまった。上海から見ると東京・大阪・福岡も、熊本もあまり変わらないと思ってしまったんですね。そう並べてみた時に、僕はやっぱり熊本が好きだったんだと思います。
仕事の選択肢が少ない…でも生活は成り立つ
編集部 実際、転職活動はいかがでしたか?
長崎さん 思っていた以上に無かったよね(笑)。
菅野さん 確かに(笑)。転職エージェントにはあなたの働けるところは2社しかないと言われました。
長崎さん とりあえず最初に、「熊本 営業 転職」で検索してみたら、某国営放送の料金徴収員と、ハウスメーカーの営業の2社しか出て来なくて。どうしたらいいんだろうとは思いましたよね(笑)。
でもそれからさらに検索していくうちに、「リージョナルキャリア」との出会いがあって、そこでいまの仕事を紹介して頂きました。最終的には満足のいく転職ができて、本当に良かったです。
編集部 仕事を見つける中で「やっぱり転職やめよう」と思うことはなかったですか?
長崎さん 最初にネットで検索したとき、あまりにも仕事がなくて恐ろしくはありましたね。いま働いてる安定した会社を捨てて熊本に行くのに、ここまで選択肢が少なかったらそれはみんな思い留まるよなぁと…。
ただ東京でそのまま生活していくことも、僕はすごく中途半端だなと思ったんです。奥さんは専業主婦だったので預けられる保育園も無いし、だからといって自分も早い時間に帰ることはできない。でも仕事中は家族のことが気になって、どっちつかず…。結局、そういう時は仕事でも中途半端な成果しかでないんですよね。
このままずるずる2~3年費やすことを考えた時に、自分は家族を優先したいと思いました。仕事は熊本に行ってもなんとかなるかなと。むしろ東京で培ったスキルを活かして、熊本でもっと面白い仕事をしたいなと思いましたね。
菅野さん 僕は仕事を選ぶとき、最初に考えたのは生活費のことでした。熊本でいくら生活費があればやっていけるのかなと。
熊本の家賃相場や物価を調べて生活費を試算し、熊本の給料の相場と照らし合わせたんです。そしたら20万円あればクリアできるというのがわかった。もちろん蓄えという部分を考えると少ないかもしれないけど、その場合は奥さんがパートで少し働けば生活していけるよね、という話をしたり…。自分一人でもそれくらいでやっていけるというのがわかって、安心に繋がりましたね。
長崎さん うちもいま奥さんがパートで働いてくれているので、二人分合わせると東京にいたときよりも世帯収入は増えていると思います。生活には全く困っていません。
うちの場合、生活にかかるコストも熊本の方が明らかに減っていると思います。奥さんの両親が近くにいるので食事を一緒にさせて頂くこともあるし、お米とか食材を頂くこともあります。それらをお金に換算すると大きいですよね。
編集部 東京にいたとき、奥さんは働けなかったのでしょうか?
長崎さん 専業主婦で保育園に子供を預かってもらえず、子育てに追われていたので働ける状況ではなかったですね。3才と1才の子供がいて、旦那も家事を手伝ってくれなくて大変なのに、そういう状況でわざわざ仕事探しに行こうっていう気がまず起きないと思います。周りの助けがほとんどないので、孤立感もあったと思いますし…。
菅野さん うちも横浜に住んでいたとき、同じ日本の中ではあるけど、熊本にいたときと横浜にいた時では全然違ったと言っていました。横浜にもママ友はいましたけど、やっぱり気兼ねなく頼れる両親や地元の友人がいるのとそうでないのとでは、違いが大きいでしょうね。僕も忙しくて家事はほとんど手伝えなかったので、旦那の助けがないなら自分だけでやるしかないという、かなりのプレッシャーがあったと思います。
仕事を作るという選択肢
編集部 実際、熊本での転職を進める中で周りの反応はいかがでしたか?
長崎さん 基本的に家族は応援してくれていました。ただ、僕は収入がけっこー減ることになったので、それを知った職場の人や友人からは「それで大丈夫なの?生活できるの?」とびっくりされましたね。特に一緒に働いていたメンバーからは、新しい職場や収入について「それでいいの?」「もうキャリア追わないの?」と言われるときもありました(笑)。
編集部 そういう風に言う人たちの中には地方出身者もいるんでしょうか?
長崎さん そうですね、一方では一部の地方出身者の人にうらやましいと言われていました。やっぱり地元の方が子育てしやすいとか、同じ収入もらえるなら地元に帰りたいという人も案外多かったですよ。
菅野さん みんな帰りたいんだよね。
長崎さん そう、みんなうらやましいと思うところはあるんだと思う。田舎の良さを知ってる人だと特に、帰りたいと思うんじゃないかな。
編集部 とはいえ、仕事がなくてなかなか決断できない人も多いんでしょうね。
菅野さん 与えられた環境で頑張りたいという人にとっては、やっぱり地方は仕事の選択肢が少ないと思います。僕は自分で仕事を作ることもできると思っていたので、決断できたのかな。
長崎さん 確かにそうですね、僕も最悪「仕事が無かったら作ればいい」と思っていました。僕らみたいな気質の人だと割と決断しやすいのかもしれないですね。
編集部 お二人みたいに仕事を「作ればいい」と思える人はそう多くないと思うんですよね…(笑)。
長崎さん 僕の場合、前の職場のときに、辞めて起業する人が割と多くいたんです。そういう人たちが普通に収入を得ているのを見て、自分もあがけばできるのかもと思いましたね。菅野さんもそういうことがあったんですか?
菅野さん 僕の場合は仕事が元々コンサルタント業だったから、基本ひとりで仕事してたのが起業に似通ってる部分もあって、それで起業にそんなに抵抗は無かったかもしれない。
ただ前に働いていた企業で、20年間勤務していた人がリストラに遭って。割と大きい会社ではあったんだけど、会社のためにこれだけ頑張った人が切られるってわかったときに、自分もどうなるかわからないと思った。ここにずっといてもしょうがないなって。だからやっぱり自分の実力でやって行くしかないって思ってたのも大きいかな。
編集部 菅野さんはすでに起業されているとか…。
菅野さん そうなんです、最近、熊本に来て勤めていた会社を退職して起業しました。元々海外事業をやりたかったのもあるんですが、熊本に来て改めて「熊本発」のものを海外に発信したいと思ったんです。きっかけはやっぱり熊本地震でしたね。熊本に対して自分が何かできないかと考えた時に、自分の海外での経験を活かして海外に熊本を打ち出していこうと思い、起業に至りました。
上海から見ると、「熊本でもできるじゃん!」と思うことがたくさんあるんですよ。視野を広くして熊本にある様々なビジネスチャンスに目を向けられると、仕事の選択肢が少なくても、ほかに新しい「稼ぎ方」を見つけられるかもしれませんね。
編集部 転職なり起業なり、決断できない人は何が理由で決断できないのでしょうか?
菅野さん 収入かな?「年収がこれくらいないとだめだ」という自分の基準を持ってる人は、いまの収入を失うのは怖いかもしれないですね。あとは大企業で働いてるというラベルとか…。もしくは奥さんが年収や大企業のラベルにこだわってたりすると、難しいかもしれないですね。
長崎さんは奥さんが横浜に残りたいと言ったら、どうしてた?
長崎さん それはわからないですね~(笑)。でもやっぱり、奥さんの意見を尊重したかもしれないです。
菅野さん 家族の意見はやっぱり大きいよね。
狭まっていく都市と地方の差
編集部 熊本で働いてみて感じる、「熊本ならでは」みたいなことはありますか?
菅野さん 地元愛が強いですよね。熊本県民ならではの団結意識みたいなものを感じます。
とはいえ熊本が好きであれば受け入れてくれるので、変に主張しなければ外から来た人も入って行けると思う。
郷に入れば郷に従えで、変に「東京ではこうだった」をいうのを主張するのではなく、地元の人たちが培ってきたものの中で、自分が活かせることを考えたらいいと思う。そういうスタンスでいるからか、僕はそんなに疎外感は無いですね。
長崎さん 僕が感じたのは熊本の人たちが、自分が想像していたよりも、本当に熱心に勉強もスポーツもしてきて、育っている人が多いなぁと。基礎能力が高いと感じる人の比率が大きい気がしています。
ただ、ビジネスの目線で見ると、のほほんとした対応になる企業が多い。例えば見積もりひとつ取るにしても、東京や福岡の企業に比べると少し遅さを感じたりしますね。磨き上がってないと感じる部分はありますが、そのあたりに自分たちが役立つ部分があるのかなとも思いますね。
編集部 逆に不便に感じることか、物足らないと感じる部分はありますか?
菅野さん 東京に行く交通費が高いですよね(笑)。仕方ないのかもしれませんが…。ただ今はネット社会ですし、会わなきゃいけない人が東京にいたとしても、スカイプですぐ会えますからね。地方への転職についても、スカイプで面接ができたりしますし。
長崎さん これだけ世の中のテクノロジーが進化してくると、都市と地方の差はなくなっていくのかなと感じます。自動運転システムの開発も進んでいますし、これが普及すれば交通費も安くなるかもしれませんよね。
いまは地方だと情報が少ないなと思う部分もあるけれど、その情報へのアクセスの仕方もどんどん増えてきているので、地方のデメリットもテクノロジーが埋めていってくれると思います。
固定概念を捨てて飛び込んでみよう
編集部 実際、熊本で暮らしてみた感想を教えてください。
長崎さん 自分が思っていた以上に良かった。これ以上ないくらい、あまりにも環境は快適です。そもそも自分でその環境を選んで取りに行ったと言う納得感もありますが、車通勤も丁度良い距離感で、仕事にも没頭できる環境です。最近は一から設計して、マイホームも購入しました。ローンもおそらく大丈夫だとは思える範囲・・・なはずですし、家族との時間も取れて…。あまりにも良すぎて怖いくらいです(笑)
なぜ今まで何かにストレスを感じて生きてこなければいけなかったのかと、改めて思います。毎朝駅まで20分歩いて、思い切り潰されそうになりながら満員電車に乗って…。お昼は大して美味しくない高いランチを食べ、終電で帰る日々。それが当たり前だと受け入れていたけど、受け入れる必要は全く無かったんですよね。
満員電車に揺られていることも含めて自分の成果、というような雰囲気が東京にはあるのかもしれない。苦行に耐えてこそ、みたいな。そういうのが嫌だから、「田舎のさえないところに行くんでしょ」と思われる部分もあると思うし、自分自身もそう思ってしまっていたところがあったと思います。でも本当に熊本に来て正解だったと、いまは胸を張って言えます。もし迷ってる人がいたら、思い切って来てみたらいいと思う。
菅野さん ほんとに満員電車に乗らなくていいだけで、人生かなり得してると思いますよ(笑)。僕は満員電車と最終電車でしか帰れない生活をしていたので、それが本当に嫌だった。
満員電車も含めて都会が嫌だとか、都会にいることに苦痛や疑問を感じる人は、一回地方に帰ったらいいんじゃないかなと僕は思います。帰ってからもう一回東京に出ることだってできますよね。田舎戻ったら最後、と思うこと自体が固定概念じゃないかな。田舎に戻ってきて、田舎の生活がしっくりくるかもしれないし、やっぱりまた東京でチャレンジしたいと思うかもしれない。その時はもう一回東京に出てもいいじゃないかなと。「自分にはここしかない」と決め込まないで、一度飛び込んでみたらいいと思います。