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【特集/SDGsに取り組む熊本市】“安全安心な「上質な生活都市」”とは
熊本市は内閣府により、2019年度の「SDGs未来都市」、「自治体SDGsモデル事業」に選定されています。「自治体SDGsモデル事業」は、特に先導的な取り組みであると認められた、全国でも10自治体※と数少ない事例の内の一つとして選定されています。
SDGsへの取り組みのゴールでもある「2030年のあるべき姿」として、同市が掲げる“安全安心な「上質な生活都市」”とはどのような都市なのか。その都市像を明らかにするべく、熊本市環境政策課の桝田さんに、SDGsへの取り組みについて取材しました。
熊本市環境政策課 桝田さん
熊本市がSDGsへの取り組みを始めたきっかけは?
編集部:熊本市が2019年度「SDGs未来都市」に選定されたとのことですが、SDGsへの取り組みを始めたきっかけを教えて下さい。
桝田さん:2016年の熊本地震が大きなきっかけになっています。熊本地震からの復興のためにSDGsの観点を取り入れながら熊本市を立て直す必要があると考えて、取り組みを開始しました。SDGsにおけるすべての目標を横断する包括的なゴール設定として、“安全安心な「上質な生活都市」”を掲げています。
熊本地震では、本市で約278,400戸、県内では約455,200戸、また多くの避難所でも停電したことにより、大変な混乱に陥りました。現代のような情報化社会において、被災時における「電力」は特に重要度が高まっています。熊本地震でライフライン強靭化の必要性を痛感したことから、熊本市では「電力」を中核とした地域防災・減災のまちづくりに注力して取り組みを進めています。2019年に本市が選定された「自治体SDGsモデル事業」は、「熊本地震の経験と教訓をいかした地域(防災)力の向上事業」。環境・経済・社会それぞれの分野でSDGsのゴールに沿って取り組んでいます。モデル事業の中でも核となるものが「ライフライン強靭化プロジェクト」です。
(熊本市HPより)
様々な相乗効果を生み出す「ライフライン強靭化プロジェクト」
編集部:「ライフライン強靭化プロジェクト」の具体的な内容を教えて下さい。
桝田さん:「ライフライン強靭化プロジェクト」は、発電施設でもあるごみ焼却施設(東・西環境工場)を核とした総合エネルギー事業であり、大きく3つの要素で構成されています。3つの要素とは①地域エネルギーの地産地消の発展②電気自動車の電力供給に係る官民連携事業③EVバスの導入促進です。
(熊本市HPより)
要素①は、「地域エネルギーの地産地消の発展」。本市で発電した電力を本市で活用するという一連のシステムを発展させて、環境保護と防災・減災のために運用していく取り組みです。東・西環境工場で発電した電力を、本市が出資する地域エネルギー会社であるスマートエナジー熊本㈱を介して市施設の40%に供給するシステムを構築しています。これにより大手電力会社に支払っていた電力料金と、CO2 排出量を大幅に削減することが可能となっています。そのシステムを発展させ、電気料金の削減分を基に、2018年度には「熊本市省エネルギー等推進基金」を創設しました。市民や中小企業を対象として省エネ機器等への助成を行うことで本市の CO2 削減に寄与しています。また避難所を含む市施設約20か所に大型蓄電池を設置し電力供給を行うことで、停電時でも2日間は業務が継続でき、損害を最小限に抑えることができるように備えています。
要素②は「電気自動車の電力供給に係る官民連携事業」。EV車を活用することにより、災害時に避難所や市街地に給電する事業です。日産自動車㈱と提携し、熊本日産自動車㈱、日産プリンス熊本販売㈱が所有する電気自動車を活用することで、停電時にも避難所や病院等で電力供給を確保できるようにしています。同社とは非常時に最大19台のEV車を稼働できるように連携協定を締結しています。
日産グループとの連携締結式にて電気供給の実演の様子(熊本市HPより)
また、西部環境工場から地下に自営線を敷設し、近隣の城山公園運動施設にEV拠点を設けています。これによりEV車やEVバスの給電拠点とするとともに大規模な停電の際には充電拠点としても活用することができます。災害時に送電線の切断等の影響で電力供給が停止しても、自営線から約150世帯分の電力供給が可能になっています。
要素③は、「EVバスの導入促進」。EV車と同じく災害時の給電と地場産業の振興を目的として推進しています。EVバスは熊本大学が環境省からの委託事業として㈱イズミ車体と全国への普及を目指して開発・製造を進めており、2018年には本市での1年間の実証実験も行っています。開発されたバスは中古のバスを改造することで低価格で製造でき、全国の車両工場においても生産できるため普及拡大が期待できます。本市では2019年から熊本城周辺を走行する路線バス、「熊本城周遊バス(しろめぐりん)」に熊本発のEVバスとして導入おり、実際の運行時のデータを収集、分析することで、全国に向けてEVバスの普及促進をしていきたいと考えています。また、EVバス内のモニターにCO2削減効果などをリアルタイムで表示することで、観光客に対して「環境にやさしい都市」という熊本市の都市イメージを訴求していきます。
EVバス実証試験車「よかエコバス」(熊本市HPより)
これら①~③を連動させることにより、環境・経済・社会の3側面に対して相乗効果を生み出したいと考えています。環境に対しては温室効果ガスの排出量削減、経済に対しては官民連携強化による企業立地の促進やEVバスといった新産業の創出、社会に対しては地域住民の健康促進など、様々な面で相乗効果が期待できます。
近年大規模災害が各地で頻発しており、全国的にも「防災・減災」が重要なテーマとなっています。「防災・減災」と同時に環境への配慮など、SDGsの17のゴールにおける様々な観点で効果がある事業です。
編集部:これらの取り組みは全国的に見ても珍しい取り組みなのですか?
桝田さん:総合的なエネルギー事業のパッケージとして新しく、高く評価されています。前例として地域エネルギー会社を設立したり、災害時にEV車を活用する自治体は増えてきていますが、本市としてはそれぞれの要素単体ではなく、全体として取り組むことで相乗効果を生み出したいと考えています。また他の地域においても実現可能で、横展開しやすいといった点も評価を受けているポイントになっています。今後は各自治体での講演などを通して普及展開を図っていきます。
企業とも連携し持続可能な地域社会の実現を目指す
編集部:SDGsの観点で企業連携も積極的に行われているのですね。
桝田さん:SDGsの17のゴールを達成するためには、自治体だけでなく企業との連携が不可欠です。
2019年11月には三井住友海上火災保険㈱とSDGs推進に関する連携協定を締結し、GISによるハザード情報と地域データを統合・共有し、リスク分を分析するなど、地域防災力の向上に向けて様々な事業に取り組んでいます。
また、2020年1月には㈱肥後銀行・公益財団法人地域経済総合研究所とも連携協定を締結し、企業のSDGsへの取り組みを発信する場として、登録・認証制度の創設を検討しています。行政と金融機関が提携することで評価に客観性を持たせることに加え、企業に対してSDGsへの普及を図ることができ、企業側も採用など非財務情報での評価の向上や投資といった様々な面でメリットを享受できるため、好循環を生み出せると考えています。
今後も様々なステークホルダーと連携を図り、共に誰ひとり取り残されない持続可能な地域社会を実現させていきたいですね。
全国からも注目される「熊本市」へ
編集部:「SDGs未来都市」・「自治体SDGsモデル事業」に選定されて以降、反応はいかがですか?
桝田さん:環境省や自治体が実施するシンポジウムやフォーラムでの講演など、全国各地からお声掛けを多数いただいています。「東京モーターショー2019」で「防災」をテーマにご紹介されるといったこともあり、多方面で注目していただいていると感じます。
また、SDGsへの取り組みは企業誘致の面でもインセンティブになると考えています。実際に県外の企業から問い合わせをいただくこともあり、連携に関しては給水スポット拡大に関する連携やSDGsの普及啓発に関する連携など、「一緒にやりましょう」といったお声掛けも多数いただいています。こういったことから企業誘致に結び付けていきたいと考えています。
SDGsはグローバルな目標であり、今後世界の中での熊本市を認知してもらうために、「SDGs未来都市」・「自治体SDGsモデル事業」への選定はインパクトがあります。グローバル社会の一員としてSDGsに取り組む責務があると感じていますし、SDGsを利用して熊本市の魅力を発信していきたいです。
編集部:熊本市へUIターンを希望する方にメッセージをお願いします。
桝田さん:熊本市はSDGsへの取り組みを通して、市民・企業と一体となって“安全安心な「上質な生活都市」”を目指していきます。ぜひ熊本市の一員となっていただき、一緒に世界から選ばれる都市をつくっていきましょう。
編集部:貴重なお話をありがとうございました。
(取材日時2020年2月17日)
※…2019年度は、「SDGs未来都市」として全国31自治体、うち「自治体SDGsモデル事業」は10自治体が選定(熊本市HPより)