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現場に立ち続け、社員一人ひとりと向き合う。創業80年の年商100億円を目指す株式会社杉養蜂園の杉社長

現場に立ち続け、社員一人ひとりと向き合う。創業80年の年商100億円を目指す株式会社杉養蜂園の杉社長

杉喜美子(すぎ きみこ):株式会社杉養蜂園・代表取締役社長。熊本市出身。東京経済大学卒業後、1985年杉養蜂園に入社。2007年に取締役(営業統括)、13年に常務取締役(人事部長)、18年に専務取締役を歴任し、25年4月代表取締役社長(4代目)に就任、現在に至る。

熊本から世界へ。独自の生産哲学で自然環境を守り続ける

ココクマ編集部(以下、編集部): まず事業内容からお聞かせください。

杉 喜美子社長(以下、杉社長) 私たちは1946年の創業以来、ミツバチの飼育から採蜜、製造、販売まで一貫して自分たちで手がけてきた養蜂家企業です。はちみつ・ローヤルゼリー・プロポリスといった健康食品から、はちみつを配合した自然派化粧品まで幅広い商品ラインナップを展開しています。現在は国内に直営店を75店舗構えており、グループ全体の従業員数は約500名。海外はシンガポール・タイ・香港・ニュージーランドにグループ企業があり、シンガポールや香港などでは催事展開もしています。2026年3月期の売上高は67億円です。

私たちのお店では必ず試飲・試食からお客様との関係が始まります。はちみつをお水で割ってドリンクにして「どうぞ召し上がってください」とお渡しする。そうすると「美味しい」「身体にも良さそう」と喜んでくださる…。お客様の笑顔を見ることが、この仕事の原点であり、商品力がお客様を繋いでくれるというのが私たちの誇りです。

編集部: 2025年4月に社長にご就任されました。その経緯についてお聞かせいただけますか。

杉社長 幼い頃から父(創業者)が養蜂現場に連れて行ってくれたり、学校から帰ると「紙と鉛筆を持ってこい」と言われて原価計算を教えてもらったりしていました。また、学生時代には母と一緒に、百貨店での催事の準備からお客様への販売までやっていたこともあり、この仕事の1から10まで全部分かっているつもりでいたんです。だからこそ、ずっと社長をやりたいという気持ちが心の奥にあったんです。2018年には父に「私を社長にしてほしい」と直談判に行ったのですが、「女性が社長では…」という考えが強くて…。その時は、なんで女性がなったらいかんのかって、悔しい思いもしました。それが2022年に父が亡くなってしまい、創業者の志や想いは受け継ぎたいと思う中で、息子(現副社長)から「お母さん、やってみろよ」と背中を押してもらい、ようやく実現したんです。

編集部: 念願だった社長に就任されて、どんなことに取り組まれていますか?

杉社長 まず立ち上げたのが月1回の原料ミーティングです。はちみつの在庫がどれだけあるのか、どこから仕入れるのか、価格はどうなのか。私は現場歴が長いこともあって、「いい商品なのになぜ売れないのか」が肌感覚でわかるのです。社長になった今も自分で店頭に立って、スタッフとコミュニケーションを取り、お客様の声も直接聞いています。現場に立つと知恵が湧いてくるんですよ(笑)。その視点でミーティングを回すことで、在庫として余らせることなくお客様へお届けできています。コスメ商品も就任直後にリニューアルしました。品質はそのままに、容器をシンプルなものに切り替えてコストを下げることができ、価格をぐっと落としたことでお客様の数が就任前と比べて約30%増えました。商品には絶対の自信があります。知ってもらうことこそが第一歩ですから、より多くの方に届けていけるよう取り組んでいきたいと思っています。

編集部:変えないこともありますか?

杉社長根本的な理念や思いは変わりません。創業以来培ってきたのが、独自の生産哲学『健やか農蜂業®』。これは、「大自然の中では、養蜂業も農業もひとつだ」という思いです。ミツバチと人間が健やかに生きることのできる地球環境を守ることも重大な使命ととらえ、国内外問わずさまざまな活動に取り組んでいます。また、「自分たちにできることはすべて自分たちでやる」という考えのもと、あらゆる工程で手仕事にこだわるのが、当社の貫き続けている「ものづくり」の在り方です。

2034年100億達成へ、店舗・海外・商品・デジタルで年率5%成長を目指す

 編集部: 2034年売上高100億円を掲げていらっしゃいますね。

 杉社長 売上高100億円いう数字は、前社長の時からの目標でもあります。私が社長の間に達成できるかどうかはわかりませんが、達成できると信じています。年率5%ずつ積み上げていく計算で、焦らず着実に、でも確実に手を打っていくことが大事です。ただ、私一人が頑張っても絶対に達成できません。みんなが自分ごとで考えて動いてくれることが不可欠だと思っています。直近3期は過去最高の売上実績を更新し続けることが出来ています。これに満足せず、次の一手を確実に打っていきます。

 編集部: 具体的にはどのような打ち手を考えていらっしゃるのでしょうか。

 杉社長 大きくは4つあります。1つ目は店舗戦略の転換です。これまでは年3店舗ずつを目標に新規出店してきましたが、「よほどいい物件があれば出店する、そうでなければ既存店の充実を図る」という方針に切り替えました。25年は太宰府・富士河口湖・川越など5店舗をリニューアルしたり、採算の合わない東京の2店舗は思い切って閉鎖して、スタッフは近隣店舗へ異動してもらったりすることで、充実を図りました。観光地の店舗を中心にインバウンドの増加効果もあって計画を上回る結果が出ていて、杉養蜂園を知ってもらうきっかけとしても、店舗の重要性を改めて感じています。
2つ目は海外・業務用展開です。26年フィリピン・マニラでのフランチャイズ1号店に向けて準備を進めています。お客様としてご来店いただいたことをきっかけに、「杉養蜂園の商品は美味しいからぜひ取り扱いたい」とフランチャイズ契約に至りました。これが、当社の商品力の証だと思っています。有名なカフェチェーン店や、海外の企業からも私たちの商品を使ったメニューを作りたいという引き合いもいただいており、業務用展開にも力を入れていきます。シンガポール・台湾での企業向け大型商談会にも出展予定です。

3つ目は商品開発・原料調達の強化です。国産はちみつを届けることが私たちの命題ですが、気候変動の影響で採蜜が年々厳しくなっています。そのため、北海道や秋田県へ養蜂拠点も全国に拡げています。以前から関係の深い北海道・浜中町では地域の方々との植樹活動を継続し、ミツバチの過ごしやすい自然環境の保全にも取り組んでいます。一方で品質の高い海外産はちみつも積極的に魅力をお伝えしていきたいと考えています。ブルガリア大使とのご縁もあって、希少価値が高いと言われるローズのはちみつも確保できました。ブルガリア産のローズ・ラベンダー・ひまわりのはちみつをフェア形式で大々的に販売予定です。
4つ目はデジタルへの移行です。4月からアプリを導入して、来店スタンプや会員向け企画を展開していきます。アウトバウンドで電話をかけていた時代から、ECやアプリでお客様とつながる時代へ。2026年度にはリピート期間を選択できる購入制度の導入も予定しています。

育休100%・新卒離職ゼロ・管理職に「早く帰りなさい」と言える「人を大切にする会社」

編集部: 組織づくりにどのように向き合っていらっしゃいますか。

杉社長:社員と対話する機会を多くとるようにしています。なんでも意見を言ってほしいと常日頃から発信していますし、私が分からないことは、その道の専門家でもある社員に教えてもらう姿勢でいます。女性社長になり意見が言いやすくなったという声も聞くようになりました。
また、「できません」は言わなくていい、「できないなら、どうすればできるか考えなさい」というのが私の軸で、それは父から受け継いだ言葉でもあります。与えられた仕事をこなすのではなく、自分ごととして考えて動ける組織にしていきたい。その変化が一年かけて少しずつ出てきていると感じています。

女性比率が高い職場だからこそ、女性ならではの悩みに寄り添える社長でいたいとも思っています。家庭と仕事を両立する大変さも、妊娠中の体のつらさも、育児しながら管理職を続ける葛藤も、全部自分が通ってきた道ですから。

編集部: 制度面での取り組みや、採用・人材育成についてもお聞かせください。

杉社長 育児休暇は男女問わず、申請があれば100%取得できています。先日、ある男性社員が育休から復帰したときに、妻から「良い会社に就職したね」と言ってもらったと話してくれたんです。それが本当に嬉しかったですよ。育児短時間勤務の方も多いですし、介護が必要になった方も制度をどんどん使ってくださいと言っています。管理職の方が短時間勤務を使う時、後ろ髪引かれる気持ちや申し訳ない気持ちがあるのはよくわかる。ですが「子どもが優先、早く帰りなさい」と言える環境を作り、その言葉でホッとしてくれる社員がいるなら、それだけで十分です。そういう経験を経た人が復帰してきた時、もっといいリーダーになってくれると信じています。

編集部:特に女性の活躍推進に力を入れていますね。

杉社長:前述の取り組みが評価されて、女性活躍推進の「えるぼし」3つ星認定、健康経営優良法人「ブライト500」の6年連続認定もいただきました。杉養蜂園に勤めてよかったと思ってもらえる会社にしたい、その一心でやっています。採用では昨年入社した新卒6名が一人も辞めずに素晴らしい成長を見せてくれていて、今年の新卒6名も様々な経験をしながら人としても大きくなってもらいたいと思っています。中途でもミツバチやはちみつに対する私たちの想いに共感していただける方に来ていただきたいですね。父から受け継いだ杉養蜂園という看板にも恥をかかせないよう、物価高騰が続く中でも社員が安心して働けるように、賃金のベースアップなども含めて環境を整えていきます。風通しの良い会社、ハラスメントのない職場、女性が活躍できる環境——これが私たちの誇りです。

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